学習塾に社員として勤務中または退職した仲間たちから、現状がひどい話をよく聞きます。その中には、対策授業などの休日出勤が多すぎる、ノルマがきつい、授業中に営業の電話を入れないといけない、夜の11時以降は会社のパソコンの電源が消えてしまうため業務ができないなどの話も多く聞きますが、「これは法律違反」というのも少なくはありません。その中で代表的なものをいくつか列挙したいと思います。

 1.​残業代、休日出勤代の未払い 

労働基準法の規定では一日8時間、週40時間を超える勤務に対しては、会社側は残業代 を支払わないといけません。それなのに午前中​から会議や、研修、保護者面談、門配、 ポスティング、入試応援など、勤務時間後も清掃や終業ミーティングなどを強制的に入れ、それでも残業代を支払わないケースが多くあります。中でも悪質な会社は、社員にタ イムカードや出勤簿に毎日決まった時間(始業時間と終業時間)を記入するように社員に指導している塾もあります(私も2社経験しました)。   

これらの塾では表向き月の残業時間はほぼゼロ時間になっています。よって残業代が基本的に規定どおり支払われることはありません。また通常の残業代は時間単価 × 1.25。休日出勤した場合は時間単価 × 1.35の割増賃金が支払われないといけませんが、この法律上の規定を守っていない塾も多いと思います。実際私が今までに勤務した学習塾はすべてクリアしていませんでした。   

2.長時間労働の隠ぺい 

タイムカードや出勤簿に決まった時間を打刻、記入するように強要する学習塾もありま す。通常の始業~終業の勤務時間であれば問題ないのですが、実際には始業時間前の早出や終業時間後に業務をした場合でも通常の始業~終業の勤務時間で打刻、記入するように強要されます。

このシステムはかなり悪質だと思います。例えば通常の8時間勤務の場合、出勤は13時、退社は22時でタイムカードに打刻もしくは出勤簿に記入することが強要されている ため、いくら早出、残業しても通常の8時間しか勤務していないと記録されてしまいます。もちろん残業代はいっさい支払われません。通常の勤務時間以外の勤務は社員の「自主出勤」と扱われ、社員自身の「自己責任」に帰結されてしまう可能性が大きくなります。当然ですが会社も社員が実際何時から何時まで勤務したのか、社員の労働時間を全く把握していません。自分で実際に勤務した時間の記録をつけていないと、今月は何時間残業しているのか自分自身ですらまったくわからなくなります。   

私が以前勤務していた首都圏の大手塾では四十代の社員2名が謎の死(過労死の疑い大)をしています。現にそのうちの1名は、ほぼ毎日午前中から勤務し、退社は早い時で終電 (23時30分過ぎ)でした。また同じく四十代の社員が勤務中に心筋梗塞で倒れて救急車で運ばれるところも見ています。しかしこの塾では全社員がいくら残業しても記録上はまったく残業していないことになっています。ですから表面上は絶対に過労死はあり得ないわけです。

このように社員の労働時間を全く管理していない塾に勤めていて、過労死してしまってか らでは遅いです。このようなシステムは早急に改めるべきです。そういう塾に勤めている場合は、社内用のタイムカード(出勤簿)の他に、毎日の勤務状況を個人的に記録しておかなければなりません。何時に出社し、何時に退社したか、その業務内容もきちんと明記しておけば、もし最悪の場合になったとしても過労死を認定される可能性が高まり、未払い残業代の請求にも資料として提出することができます。

3.​上長のパワハラ 

これに関しては愚痴などが多いですが、その中でも法に触れそうな内容を紹介しておきます。新入社員などにある授業研修で、新入社員があまり良い授業ができなかった時、具体的にどこが悪いのか、どこを直せば授業が良くなるのかを指摘せず、ただ「寝ないで準備してこい」と言ったり、ネチネチと説教したり、罵倒したりする研修担当者(上 長)がいるという話をよく聞きます。これでは新人教育の場が単なる「新人イジメ」の場 になってしまいます。

学習塾の現場は校舎単位で完結している場合が多く、体育会系の職場も多いので、もし校舎内部でパワハラなどの社員間の問題が発生したとしても、その実態が他の校舎で勤務する社員からは見えにくいという特徴があります。 

4.理由なく降格・退職強要 

明確な理由がないのに突然会社から降格を言い渡されるケースも割と多く見ます。ある程度年齢がいった社員で、急に室長(教室長)などの役職を下りた(下ろされた)社員が多い塾は、降格することで賃金水準の高い中高年社員の賃金を引き下げようと考えている場合もあるので要注意です。また室長が短期間に異動する塾も注意が必要です。室長になると休日が減る、校舎の実状を度外視した過大な目標を課せられる、目標達成のため早朝~深夜までの勤務が増える(当然サービス残業)など、業務がきつく室長のなり手が少ない、なってもすぐに辞めてしまうケースが多いです。   

もっとひどいケースは、ワンマン経営の学習塾で多いのですが、経営者が自ら辞める気持ちのない社員に無理やり退職届を書かせるというとても悪質なケースがあります。有給休暇を申請したという理由で退職届を書かせるケースもあるそうです。経営者が気に入らない社員を退職に追い込むことが平然とおこなわれています。この被害者は四十代以上のベテラン中高年社員が多く、これから自分の子供にもお金がかかり、なおかつ再就職は予想以上に大変です。

5.有給休暇が取得・消化できない 

学習塾では有休取得率の低いところが殆どです。ほぼすべてが50%を切っているので はないでしょうか。(​※​注・私が勤務していた某大手塾は推定10%程度) 私が勤務した学習塾の中には社員の有休消化を積極的に進めているところもありましたが、それでも全社員の取得状況を見ると半分を切っていると思います。学習塾において社員の有休取得率が低い理由として、自分の授業には代講を入れたくない。休みを取ると仕事が溜まるという社員側の意識の問題もあると思われますが、いちがいにそうだとは言いきれません。    

これはある大手塾の話です。そこでは経営者が自ら会議などで「土曜日に友人の結婚式があるという理由での有休は認めない」と豪語していました。その塾では社員が有休を取るのがとても困難で、閑散期でも社員の有休取得は認めないという方針でした。 

ひどいケースですと、自分の親の介護のための有休も、理由を聞いたうえで認めませんで した。そこでは使用しなかった有休は次年度まで繰越しはできましたが、結局消化できな いので、その会社に勤めている間は有休は権利を取得するだけで消えてしまいます。インフ ルエンザや入院または退職時でないと有休は消化できませんでした。   

社員の有休申請を会社が認めないのは労働基準法違法です。ただし繁忙期(塾の場合は入試前や講習時)や有休の申請が重なった場合などで、有休取得によって業務の遂行に著し い支障が出ることが明らかな場合には、時期をずらすように社員に求めることは会社には認められています(時季変更権)が、それ以外のケースで社員の有休取得申請が通らな いのは違法です。

6.首都圏の学習塾にも労働組合を

以上のようなことが首都圏の塾(それも大手と呼ばれる塾)で十年以内、多くの事例は五年以内に起きていることです。このようなことがどうして起きてしまうのか。それは首都圏の学習塾には社員の権利を代弁するちゃんとした労働組合がどこの会社にも存在しないことが原因です。たとえば1~5の問題にしても、一人で経営者(会社)に立ち向かうのは困難ですが、労働 組合で団体交渉を行えば上記すべての問題を解決もしくは改善できます。​2​のような悪質 なシステムもなくすことができます。会社が社員の労働条件を低下させようと考えていたとしても、それを抑止することができます。   

労働基準監督署に訴える手もありますが、実際、監督署に訴えて改善で きるのは、おそらく1と5のケースだけです。2のケースは微妙ですが、それ以外は労働基準法違反とは言えない(民法上の規定に違反)ので監督署も動いてくれない可能性が高いと思います。また監督署に訴えて会社に監督署の指導が入ったとしても、会社が指導に従うかどうかは未知数ですし、監督署の指導でいったんは労働環境が良くなったとしても何年か後にはもとに戻ってしまう可能性が高いと思います。

弁護士に相談して会社を提訴するケースも考えられますが、裁判は時間がかかるうえ、たとえ勝訴したとしても、個人の問題は解決できても社員全体の労働問題の解決にはなりません。また弁護士費用もかかりますし、なによりその後も同じ会社で勤務し続けることは困難となります。   

私はこのサイトを通して、大手学習塾の中で、三重の鈴鹿英数学院大阪のワオ・コーポ レーションにはユニオン(一般労働組合)の分会として労働組合が存在し、その活動を通して職場の労働環境を向上させてきたことを初めて知りました。そして彼らと意見交換する中で、今の学習塾の労働環境をそこで勤務する塾人にとって、より安心して働きやすい職場に変革していくためには、首都圏の学習塾にもユニオンの分会としての労働組合を作るのがベストな選択だと考えるようになりました。最近では学校教員の仕事もブラック労働、ブラック職場と言われるようになってきました。でも学習塾の中にはもっとブラックな職場もあります。これを放置しておいたらいつまでたっても職場環境は変わらないし、現場の社員は疲弊していくだけです。   

私は首都圏の大手学習塾に長年勤務し、学習塾に勤務している友人や知人もいます。ですから現在の首都圏の学習塾の労働環境の現状はよくわかっています。上記の例も実際にそこでの勤務経験があれば理解できると思います。 生徒が志望校に合格した時の喜びを生徒と共に共有できるのは、親、塾講師、友人、学校の教師という順だと私は思っています。生徒とこの喜びを長く共有できるように、五十代、六十代になっても長く安心して働けるようにするため、首都圏の学習塾においても労働組合の結成をはかりたいと思っています。

首都圏で塾講師をされているみなさん、このサイトの「お問合せ・労働相談」のページからのご連絡をお待ちしています。