学習塾の休日・休暇の見極めかた

このサイトを通して私たちのもとには、各地の学習塾に勤務する方から勤務先の学習塾の労働環境についての相談がきます。その中で最も多いのが、正規の勤務時間外の残業や休日出勤をしても賃金(手当)が全く支払われない。いわゆるサービス残業についての相談です。そして次に多いのが、休日と有給休暇に関する相談です。

休日についての相談では、年間休日数が65日程度しかなくかなり少ない。休日でも当たり前のように出勤を命じられる(賃金・手当は出ない)。教室長になると週休1日になる。入試前には1か月近い連続勤務がある。休日数が経営者の一言で大幅に減らされる。さらに入社前に説明された休日数と入社後の実際の休日数がかなり違うなど「求人詐欺」のような事例もあります。

有給休暇についての相談では、会社が有給休暇を認めない。有給休暇の制度がない(!)。有給休暇の日数が法定より少ない。有給休暇を使うと人事考課が下げられる。経営者から有給休暇を使うなと強要されるなど、明らかに労働基準法に違反する事例が多いです。そこで今回は有給休暇の制度について知っておくべきこと、会社にだまされないために注意すべき点をお話します。

1.有給休暇について知っておくべきこと

さて、学習塾で働く社員の皆さんは、有給休暇の制度をどのように考えていますか。おそらく多くの人が会社(経営者)から与えられるものと何となく考えているのではないでしょうか。でも有給休暇は労働者が会社(経営者)からありがたく頂戴する権利ではありません。

有給休暇の制度は労働基準法により労働者の権利として規定されており、労働者が健康で文化的な生活を営むために付与されることを法律で明文化したものであります。したがって有給休暇は労働者が取得したい時に取得できるし、取得する理由は労働者が個々に自由に決められます。これを時季指定権と言います。

会社は労働者が有給休暇の取得を申し出た場合は即時にこれを認めないといけません。また労働者が有休を申請したときに、会社(経営者)がそれを取得させないようにすること。つまり有休を認めなかったり、取得すると人事考課を下げる、賃金を下げるなどと言って労働者の自由な有給休暇の取得を妨害することは労働基準法違反となります。

これに対し、会社には時季変更権といって労働者が申請した有給休暇の日時を、会社の命令で別の日に変更させることができる権利があります。でも会社がこれを行使するにはかなり厳しい要件が必要で、単に『繁忙期だから』とか『人手が足らない』という理由では労働者の有給休暇申請を拒否することはできないことが判例上確立しています。会社の時季変更権が有効となるのは、有給休暇を申請した本人が、その日その時間に、勤務場所にいないと、業務に重大な支障(損害)が出るといった場合のみです。普通のサラリーマンには 100% 該当しないでしょう。

つまり労働者の有給休暇の取得申請に関しては、原則として会社には『拒否権』がほぼ認められないのです。このように実際には、有給休暇の請求権というものは労働者の持つ権利としてかなり強い力を持っているのです。

そんなわけでブラック企業の経営者にとっては自分の会社の従業員にできるだけ有給休暇を使わせないようにすることが重要になってきます。従業員が個人的な都合で有給休暇を使って仕事を休んだとしても給料をカットできないのだから、給料を支払う立場の経営者にとって、できるだけ労働者を休ませないようにしたいと思うのは当然でしょう。では会社はどのような方法で労働者に有給休暇を使わせないようにしているのでしょうか。

2.有給休暇を使わせない方法

その1 就業規則や雇用契約書を利用する

学習塾ではないのですが、過去にこういう例がありました。某パチンコチェーン店の従業員が「会社が有給休暇を取らせてくれない」という理由でユニオンみえに加入しました。会社との団体交渉(私も出席)で、経営者が出してきたそこの会社の就業規則には、なんと『従業員の有給休暇は認めない』と堂々と書いてありました!! 

当然これは労働基準法違反となるので、いくら就業規則に書いてあっても無効となり、会社は従業員に法律どおりに有給休暇を与えないといけません。これには団体交渉に出てきた会社側の社労士もあきれていました。

経営者の中には就業規則などの社内規定を絶対不可侵の憲法のように考えている人もいますが、これは間違いです。就業規則もそれに附属する社内規定もあくまで「社内だけ」に適用されるルールであり、当然ながら労働基準法などの公法(一般法)が優先されます。ですからいくら就業規則に書いあっても、公法に反するものや、公法の基準を満たさないものは全て無効になります。

学習塾に勤務する皆さんも、いま一度自分の会社の就業規則の中に労働基準法に違反するような規定がないか「批判的に」読んでみてください。労働基準法に違反していたり、その基準以下の条件を規定した内容が書いてあればそれらは全て無効なので、従う必要はありません。

別の会社(確か介護サービスだったと思う)の例で、こういうのもありました。これも従業員のユニオンみえへの加入により発覚した件ですが、従業員を新しく雇用するときに『私は会社に対して有給休暇を請求しません』という契約書に署名、捺印させることを採用条件にしている会社もありました。会社がこのような雇用契約で従業員を採用すること自体が違法行為になります。したがってもし契約書に署名、捺印していたとしても、このような契約自体が法律上無効になるので会社は従業員に有給休暇を与えないといけません。

これも民法の規定に違反するのでいくら雇用契約書に本人の署名・捺印があっても契約そのものが無効になります。

ちなみに入社後、私は労働組合には加入しません。組合活動も行ないません』という条件で従業員を採用することは黄犬契約といって労働組合法(公法)違反となります。

その2 社内研修などで刷り込む

もう一つの方法としてよく使われるのが、日本人の「生真面目で自己主張せず、周囲の人に合わせる」という性質を悪用して、有給休暇を取得しにくい「空気」を職場内に作り上げ、有休を使わせないようにすることです。普段の業務や社内研修を通して・・・
「有休を取得する人はダメ社員である」
「有休を取得する人は給料ドロボーである」
「有休を取得する人は会社に貢献できない人だ」
「有休を取得する人は満足に仕事ができない人だ」
「仕事の結果も出せない人は有休を取得してはならない」
「有休を取得する人は生徒のことを全く考えていない」
「有休を取得する人は仕事を通して成長できない」

といったことを徹底して刷り込みます。俗にいう「洗脳」ですな。社会経験の少ない純粋な20代の若手社員などがこの手に陥りやすいと言えます。普段の業務の中でこのようなことが繰り返し言われる場合、ブラックな会社である可能性が高いです。一度ブラックな職場の風土・文化に染め上げられると冷静な判断ができなくなります。

繰り返し言いますが、有給休暇の制度は労働者の権利として労働基準法に明記されています。したがって有給休暇を取る人に対して「ダメ社員」「給料ドロボー」などのレッテルを貼る会社などさっさと退職して、もっとマトモな会社に転職した方がよいです。

それから新入社員の方は入社後もできるだけ社外の人とのつながりを持つことです。別の業界・会社に就職した友人や先輩、知人との交流の場を持ち続ければ、自分の会社の職場環境を客観的な視点で見ることができます。

その3 計画年休制度を悪用する

計画年休制度とは大部分の人にとって聞きなれない言葉だと思います。この制度は有給休暇の計画的付与とも呼ばれ、労働者の持つ有給休暇日数のうち一定の日数をあらかじめ休日として年休の中に組み込んでおくことで、労働者に有給休暇を計画的(強制的)に取得させます。こうすることで労働者の有休消化率を「表面的に」アップすることができます。そのかわり労働者個人が自由に使える有給休暇の日数がその分減ります。

労働基準法では計画的に付与してよい有給休暇は、すべての日数のうち5日を超える部分としています。たとえば有休の日数が20日ある人は15日、10日ある人は5日分について計画的に付与することが可能になります。有休があらかじめ会社の公休日に含まれているため、どちらの場合も労働者が自由に使える有休日数は「5日」のみです。

これ、悪用しない手はないですな。「うちの会社は計画年休制度なので有給休暇の付与日数は年間5日だ」という屁理屈が成立します。

eisuでもかなり昔はなぜか社員の有給休暇の付与日数が最大5日だった頃がありました。一度、上層部の人に尋ねたら「計画年休制度を取っているから」という答えが返ってきました。あのころは労働法制にまったく無知だったので「そうなんだ~」と納得してしまったけどね。今では法定どおりに有休は付与されますが、4年前までは定年後の再雇用社員の有休付与日数は「計画年休制度だから」という理由で最大5日でした。これも現在は改善させました。

このように計画年休制度について労働者が知らないと、会社に悪用され、有給休暇の付与日数を減らす口実に使われるケースも考えられます。

計画年休制度を会社が実施するためには一定の要件を満たさないといけません。まず職場で労働者(労働組合がない職場では社員の過半数を代表する者)と使用者とで労使協定を結び、対象労働者の範囲や、付与日数、どの日を付与日とするか、付与方法などの細かなルールを決めたうえで、事前に労働者の同意を得ておくことが必要となります。

したがって勤務先の学習塾が計画年休制度を導入している場合は、少なくとも労使協定があるか。詳細なルールはあるか。計画年休の付与日がいつなのか。制度の具体的内容が社員全員に周知されているか。社員全員がそれに同意しているのか。などをチェックして下さい。

また、この制度では会社がいったん計画的に付与した年休日を変更することは原則できません。年休日なのに講習等の授業が入っている場合は、会社の計画年休制度そのものが「ウソ」であると疑ってみる必要があるでしょう。

いくら会社(経営者)が「有給休暇の日数が少ないのは、うちの会社では計画年休制度を運用しているからだ」と言ったところで、労使協定もない。細かいルールもない。社員の過半数を代表する者が誰だかわからない。同意した覚えもない、年休の付与日がいつなのかわからない。休日に平気で業務を入れてくるという状況ならば、会社は計画年休制度を悪用しています。このような場合には一度、私たちにご相談下さい。

3.有給休暇の取得妨害は違法行為

もし皆さんの勤務する塾の経営者や役員もしくは職場の上長が「有休は使わせない」とか「有休を取得したら査定にひびくぞ」ということを普段から会議などで発言しているなら、これは法律違反行為です。労働基準法39条では、労働者が有給休暇を取得する権利が認められ、会社(経営者)は従業員の有給休暇取得に最大限配慮をすることが義務として求められています。したがって会社(経営者)が労働者にその自由意思による有給休暇の取得を制限または抑圧するような行為は認められていません。

また労働基準法136条では会社(経営者)は有給休暇を取得した労働者に対して不利益な取り扱いをしてはならないと規定されております。ここでいう不利益な取り扱いとは、会社(経営者)が有休を取得した労働者に対し、有休取得を理由として賃金・手当・賞与の減額や懲戒処分、人事考課での評価を下げることはもちろん有給休暇を取得すると何らかの不利な扱いを受けるかもしれないと労働者に思い込ませることによって、労働者が自由意思で有給休暇を取得することを妨げるような命令、指示を出すことも含みます。

つまり労働者の有給休暇の取得に対し、会社(経営者)がそれを妨害するような行為はすべて認められないのです。こうした行為をやめさせるには、相手の発言内容をICレコーダなどに記録したり、業務命令や指示として出された場合には、その文書を保存しておくことをお勧めします。証拠として労働基準監督署に持ち込んで相談するか、直接私たちにご相談ください。力になりますよ。

学習塾に勤務する皆さん

有給休暇は労働者に与えられた権利です。

有給休暇を取得することは別に悪いことではないのですよ。
自分のワークライフバランスを考えて、上手に使いましょう。

 

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