学習塾での定年後再雇用問題 ①
80年代から90年代初頭における第2次ベビーブーム世代による生徒増加期には、学習塾を中心とする「教育産業」は大きく成長しました。大手学習塾の中には70年代から80年代にかけて個人塾から法人化し、教室を増やし規模を拡大したところも多いです。この生徒増加期に学習塾に就職し勤務してきた方がそろそろ定年時期の60歳を迎えようとしています。公的年金の受給開始年齢の引き上げにともない、高年齢者雇用安定法では60歳で一度定年を迎えた後、希望者全員を引き続き65歳まで再雇用することが企業に義務付けられています。eisuやワオ・コーポレーションでも数年前から60歳で定年を迎える人が増えています。
再雇用の労働条件についての問題
ここで問題になるのは再雇用の条件です。現行では、多くの企業では定年後再雇用時には給料がそれまでの70%以下に激減します。定年後、今までと全く同じ仕事をしているのに『再雇用だから』という理由で賃金だけが大幅に引き下げられることに対する訴訟が各地で起こっています。福岡大会に来た当事者の方から直接話を聞くと、60歳定年になったからという理由で賃金だけが激的に下げられることに対する理不尽さを感じました。定年後に再雇用された労働者の賃金が下がるのは差別ではなく社会通念上、仕方ないという意見もありますが、60歳から65歳までの5年間は年金支給の空白期間(繰上げ受給もできるが年金の総支給額がかなり低下します)があるので、老後の生活設計を考えると極めて切実な問題です。最近、企業の中には定年制そのものを廃止したり定年の年齢を65歳に引き上げたりするところも現れてきました。社会通念は時代によって変化していきます。今後、私たちも労働組合として、学習塾業界でもこのような流れを実現していくために頑張っていきたいと思います。。
さて、ここで一つ注意すべきことがあります。 現行の制度では企業に定年後65歳までの再雇用を義務付けていますが、労働条件つまりどのような雇用身分、待遇で再雇用するかは、あくまで会社(経営者)と個々の労働者との話し合いに委ねられているということです。ここに大きな問題があります。
どういうことかというと、再雇用時の雇用身分は1年契約の有期雇用が一般的ですが、個別指導塾の学生バイトと同じ1コマいくらのアルバイトとして再雇用したとしても再雇用の労働条件として認められる(違法性はない)ということです。また定年後の再雇用は有期雇用(普通は1年契約)となるので、次の契約更新時に一方的に労働条件や雇用身分を引き下げることもでき、雇用が不安定になります。 eisuでも過去に定年後の再雇用で契約社員となった方が、2年目の契約更新時に一方的に雇用身分をアルバイトに引き下げられ賃金が大幅に減らされるところを、組合加入と団体交渉で撤回させた事例があります。さらに再雇用者の労働条件に個別に差をつけることも認められる(違法ではない)ので、ある人は週5日勤務の契約社員で、ある人は週2日勤務のアルバイトといったこともできます。したがって会社(経営者)の裁量で個々の労働者の労働条件が恣意的・一方的に決められてしまう危険性が高いと言えます。
このように現行の制度では定年後の再雇用条件は会社(経営者)の恣意的な裁量の入る余地がたくさんあります。黙って受け入れているだけでは雇用条件はどんどん悪くなります。定年を迎えた社員にとても受け入れられないような再雇用条件を提示し自主退職に追い込むような事例も報告されています。
eisuやワオ・コーポレーションでは今までの労働組合活動により、定年を迎えた人に無茶な再雇用条件を会社(経営者)が提示することはなくなりました。公然化組合員であれば組合と会社とで毎年の組合員の再雇用条件を協議して決めます。定年後の雇用条件の向上・安定をはかるためにも職場内に労使対立型の労働組合が必要です。
再雇用制度の悪用による賃金引下げの問題
会社組織で運営されている大手学習塾では定年制や再雇用制度について就業規則で規定され、それに従って運用されていると思いますが、学習塾によっては就業規則で定年が規定されていなかったり、規定されていたとしても経営者の裁量でなあなあで運用されてきた場合もあるのではないでしょうか。このような場合も注意が必要です。次のような例があります。
その会社では定年制が規定されておらず、60歳を超えても正社員として雇用されていました。ところがある日突然就業規則が改定され60歳定年制が規定されました。それによって60歳以上の人は全員「再雇用」扱いとなり、仕事の内容は変わらないのに賃金だけが大幅に減らされました。これなどは高年齢者雇用安定法の趣旨を悪用した賃金引下げです。学習塾で働く皆さん。自分の会社には定年制度が就業規則で規定されているのか。また就業規則通りにきちんと運用されているのか。いま一度確認してみて下さい。なお労働契約法上、就業規則を改定するには一定の手続きが必要で経営者が自分勝手に改定することは違法です。この例のようなことが起こった時には、私たちに相談して下さい。
学習塾の退職金制度の問題
定年後のもう一つの問題として、退職一時金制度の問題があります。退職金は長年にわたる勤務に報いるといった功労賞的な側面と、退職後の生活保障という面があります。日本的労使慣行の悪しき例として語られることも多いですが、このような制度は欧米にもあり、必ずしも日本独自のものではありません。学習塾に新卒もしくは20代で入社し60歳の定年まで30年以上勤務したとして、60歳の定年時に果たしてどれくらいの退職金が支給されるでしょうか。大手上場企業や公務員のような水準で退職金が出ればよいですが、学習塾の中には30年以上勤務したとしても退職金の額が300万程度と少ないところや、退職金制度がないところ、退職金規定が社内で開示されていないところも存在します。退職金が少ない(もしくは出ない)ところに、さらに60歳以降の再雇用で賃金が大幅に低下する。これでは30代後半くらいから老後の準備していかないと60歳以降に生活設計が成り立たなくなる場合もあるのではないでしょうか。これを『自己責任』の一言で片づけてよいのでしょうか。老後の生活設計の一助にするためにも、職場内に労働組合をつくって退職金制度の創設、もしくは退職金の増額を要求すべきだと思います。
皆さんの勤務される学習塾では定年は60歳ですか?
定年後の再雇用の労働条件はどうなっていますか?
退職金制度はありますか?
30年間勤務したとして退職金はいくら出ますか?
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