学習塾業界 今後の動向と労働問題

  全国の塾人の皆さま。新年あけましておめでとうございます。

久しぶりの更新ですが、本年も引き続き活動していくので、よろしくお願いします。

昨年を振り返って

このサイトも完成して1年がたちました。サイト開設後、全国各地の学習塾に勤務する皆さんから、職場環境や労働条件に関する相談や情報が集まるようになり、一部の学習塾の方との交流も始まりました。おかげで全国に塾人の友人・知人が増えました。思うに、今までは自分の勤務する学習塾の勤務条件や待遇が悪くても、他塾はどうなっているのか、 労働基準法に違反するのか、情報が少ないので比較できない。またブラックな働き方を強制されていても相談先がわからない、どうすべきかアドバイスも受けられないという状況が続いていました。その結果諦めて現状を受け入れてしまう方も多数いたのではないでしょうか。私たちのサイトがブラックな労働環境に悩んでいる塾人の「駆け込み先」「相談先」として認知されつつあることは喜ばしい限りです。

eisuユニオンはユニオンみえ、ワオ・コーポレーション分会は、なにわユニオンに所属する労働組合なので、このサイトは塾人どうしの情報交換・相談を目的とするだけではなく、ワンマン経営者による突然の労働条件・賃金の引下げや個別労使紛争などへの対抗手段の一つとしても位置づけています。おととしの学習塾をめぐる「ブラックバイト問題」や私たちがこのサイトを開設し、全国の塾人に学習塾内での労組結成を呼びかけた影響かどうかは知りませんが、近年、学習塾業界でも経営者がコンプライアンス(法令順守)をやかましく言うようになりました。社員の公休日を増やし労働時間を減らすなど社員のワークライフバランスに真面目に取り組んでいる塾もありますが、無関心な塾もあります。その学習塾の経営者がそこで働く社員のことをどのように考えているのか。その考え方次第で大きな差があります。

私たちは社内の労働環境を抜本的に変革するには労働組合の力が必要だと考えます。残念ながら今のところ他の学習塾での労組結成までは到っておりません。でもまだ詳細は言えませんが、その「萌芽」は感じています。

学習塾業界 3つの問題

今後の学習塾業界の動向を考えるとき、3つの大きな問題があります。1つ目は2020年より「大学入学共通テスト」がスタートします。昨年来、マスメディアで大きく取り上げられているので、ご存知の方も多いと思いますが、これは現行の「大学入試センター試験」に代わり大学入試のための新しい共通テストとして導入されます。昨年にモデル問題が公開されたので見た方も多いと思いますが、具体的には現行の「マーク式」のみの試験を大幅に改め、特に国語と数学においては記述式や短答式問題が増加します。全体として問題文の量が増え全教科で難易度が大幅にアップすることが予想できます。受験生は膨大な問題文の中から短時間で必要な情報を読み取り、それを取捨選択し、それを使って解答を考えるということが求められます。従来のように受験生が単なる知識や解法パターンだけを記憶しておけば解けるような問題ではなく、選択問題だけではないので、選択枝を絞って勘で解く(!)という方法も使えません。

この新しい試験では論理的思考力、判断力、表現力の3つが要求されますが、この能力は半年や1年では身につきません。そして大学入試が変わるということは、これに対応するために大学入試の前段階である中学・高校での授業内容はもちろん、高校入試や中学入試もドミノ式に大きく変化していくことが予測できます。学習塾や予備校にとって、この教育制度改革による変革の流れをうまくつかみ、新たなビジネスモデルを築き上げることができれば生徒数増大、利益拡大のチャンスとなるでしょう。しかし全ての学習塾、予備校がこの変化をうまくとらえビジネスチャンスにつなげられるかどうかは未知数です。生徒数や売上規模の大きい大手塾であってもこの流れに乗れず取り残されるところも当然出てくると思います。そうしたところは生徒数・売上ともに急減していくでしょう。

2つ目はいわゆる2018年問題です。日本の18歳人口は1992年に約205万人とピークを迎えましたが、2009年以降は約120万人でほぼ横ばいで推移していました。しかし2018年から18歳人口は再び減少に転じ、2024年には約106万人になると予想されています。すでに小学生、中学生の人口は大都市圏以外では減少しているところも多いです。学習塾の立地エリアにもよりますが、少子化を原因とする児童・生徒数の減少に企業として対処できず、淘汰されるところも現れると考えられます。

3つ目は、内部の問題ですが、学習塾の中には後継者に恵まれないところもあることです。学習塾は1970~80年代に創業したところが多く、創業者の多くは高齢です。親族に後継者がおり2代目に経営が継承されているところはともかく、そうでないところもあります。特に生徒数・売上規模が大きい大手塾で後継者がいない場合は、今後、事業承継の問題が出てくることが予測できます。事業承継の内容が社員にもきちんと説明・開示され社員の納得できるような形で行われれば問題ないのですが、ある日突然新しい経営者が現れ、経営者がその方針を一方的に押し付けるような場合には、労使関係が対立することもあり得ると思います。

学習塾 今後の動向と労働問題

これらの3つの問題をふまえ、学習塾の今後数年間の動向を予想すると次のように言えます。あくまで予想ですが業界の動向としては間違っていないと思います。2020年頃までに学習塾業界ではM&A(企業買収)による大きな再編が起こると思われます。具体的には大手塾でも大学入試制度改革に伴う変革についていけなかったり、少子化に伴う生徒数や売上の減少を阻止できない時代に取り残された学習塾は淘汰されることが予想されます。そして資金力、人的資源、情報力、技術力のある一部の超大手企業(教育産業だとは思いますが、本業が学習塾とは限りません)が、そうした学習塾の中で価値のある企業や再生可能な企業のみを買収し子会社化します。

つまり体力のある企業が、そうでない企業を買収しグループ化する。そういう動きが学習塾業界でも加速していくのではないでしょうか。この流れには後継者のいない学習塾も当然含まれます。実は今までにも学習塾業界では何度か買収やグループ化が行われていますが、今後は都市圏の学習塾も含めた大規模な再編が起こり、一定規模以上で知名度のある大手塾はM&Aにより最終的に5つくらいの企業グループに再編・集約されていくのではないかと予想しています。

大きな企業に買収されると、買われた側で働く社員はどうなるでしょうか? 他の企業(学習塾ではない)のM&A事例を見ると親会社による大規模なリストラ、配置転換、賃金引下げなどの問題が発生するケースが多いです。M&Aでは買収した側(親会社)の力が圧倒的に強く、買われた側は従わざるを得ない状況があります。M&Aは「対等」で行われることはありません。親会社も最初のうちは買収した企業の社員に遠慮したとしても、半年もすれば親会社が大きな発言力、指揮命令権を発揮することになります。

もし自分が勤務する学習塾が大手学習塾に買収され子会社になった場合、買われた側の企業内に労働組合があれば、買収後の労働条件について親会社と対等に交渉でき、また労働組合には争議権もあるので、親会社の好き勝手にはさせないための一定の影響力を行使することができます。M&A自体を否定するつもりはないですが、方法を間違えると労使関係が破たんする可能性があることは事実だと思います。従来、学習塾の方からの相談事例は労働時間(時間外労働、休日出勤)や未払い賃金が中心でしたが、数年後にはM&Aによる労働条件の引下げなどの相談割合が増えるのではと思っています。学習塾業界の今後の動向を考えると、eisuグループ、ワオコーポレーションの労働組合である私たちも、M&Aに対抗する手段を考える時がきていると思います。

 

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