学習塾でのサービス残業の背景
ブログ再開
全国の学習塾に勤務する塾人の皆さんへ。かなり久しぶりの更新になります。前回のブログ更新が5月6日なので、約5カ月ぶりの更新です。このサイト管理者の個人的な事情( 病気による長期療養 )により、しばらく更新を中断していました。会社からの圧力に屈したとか、eisuユニオン内部の問題ではないのでご安心ください。
このブログを楽しみにしていた塾人の皆さん。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。体調等もほぼ回復したので、ぼちぼち記事を更新していこうと思います。相談や質問等も今までとは少し体制を変えて行なっていきます。
学習塾ではなぜサービス残業が多いのか?
さて、学習塾で働く塾人からの相談でいちばん多いのが、長時間労働と残業しても残業代が支払われないサービス残業に関するものです。このサイトを開設したての頃、この問題を学習塾の使命である「生徒の成績向上・志望校合格」「生徒第一」という言葉が過剰に拡大解釈され、働く者に長時間労働やサービス残業を強要する温床になっている。同時に「生徒のために」という言葉が長時間労働やサービス残業への賃金未払いに対する言い訳として使われ過ぎていることを指摘しました。(2017年1月29日の記事)
このときは学習塾業界内部に古くから存在する独特の労働哲学・労働観が学習塾にはびこるサービス残業の主因であり、問題を解決するためには、この考え方を改めるべきだということを説明しました。でも最近、学習塾の労働哲学・労働観以外にもう一つ大きな要因があることに気づきました。それは公立学校教員の「給特法」の問題です。
公立校教員の「給特法」とは?
「給特法」は正式には、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法といい、昭和47年(1972年)に制定された公立小中学校等に勤務する教員の給与を規定した法律です。これは公立小中学校の教員について、時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わり、給料月額の4パーセントに相当する教職調整額を支給すると規定したものです。
この法律により公立小中校に勤務する教員には原則として時間外勤務を命じることができません。例外として校外学習・修学旅行などの学校行事・職員会議・災害時の4項目だけは時間外勤務を命じることができます。しかし、この4項目以外はすべて教員個人の自主的な活動として扱われるため、どれだけ時間外労働・休日出勤しようとも残業代はまったく支払われません。残業代の代わりとして本給の4%が教職調整額として毎月一律に支払われます。
「給特法」で規定されるのは公立小中学校の教員ですが、実際には私立校でもこの法律を教員の時間外労働の基準としているところも多く、また公立や私立の高校でも教員の時間外労働についての考え方として強い影響力を持ちます。
「給特法」の下でも毎月の残業代が教職調整額の範囲に収まっていれば問題はないのですが、実際そんなことはありません。1カ月当たりの教員の残業時間は「給特法」制定時よりも10倍前後に大幅に増えているというデータもあります。
毎日の授業準備・授業のための資料作成・補習授業・生徒指導・進路指導・テスト作り・テストの採点・保護者会・保護者対応・家庭訪問・部活の指導(早朝・放課後・日曜日など)・校務分掌など。ざっと業務を並べただけでもこれだけあります。
昨年より学校教員の「長時間労働」「サービス残業」が問題となり、もはや教員の仕事はブラック労働だともいわれています。学校教員のサービス残業の原因の一つとなっているこの「給特法」を廃止して、教員の時間外労働を認めて残業代を支払った方が良いという意見もあります。
学習塾と「給特法」の関係
ここまで説明すると、塾人の皆さんは「給特法」はあくまで公立校教員の時間外・休日労働に関する規定であり、民間企業である学習塾とどこが関係あるんだ? と思われた方も多いと思います。でも民間企業としての学習塾の成長過程を考えると、いちがいに無関係とは言い切れないのです。
現在の大手学習塾は、経営者が学習塾を創業した時期は1960年代~70年代頃が多いです。そしてこの時期の創業者は前職が学校教員だった人やもともと教員志望だった人が多いのです。学校の画一的な教育にあきたらず、自由な教育を求めて独立して学習塾を始め、折からの受験戦争のヒートアップや第2次ベビーブームの生徒急増期の波にうまく乗り事業を拡大してきたと言えます。
学習塾を創業し、規模が小さいうちは学生バイト講師を雇っていたが、規模が拡大すると大卒正社員を雇う必要がでてきます。そして正社員を雇用して法人化すれば、就業規則や賃金規定、時間外労働の規定等を作らねばなりません。
では、その時どのような制度を参考にしたのか?「給特法」が制定されたのが昭和47年(1972年)なので、この法律の影響を受けた可能性も十分に考えられます。創業者の中でも教員経験者が多かったことも理由の一つとして挙げられます。
残業についての学習塾業界での考え方と「給特法」の類似点
このようなことが言えるのは、学習塾業界における時間外・休日労働への考え方と「給特法」の類似点があまりにも多いからです。
例えば正規の勤務時間以外の労働は「生徒のために自主的に働いた=教員個人の自主的な活動」と扱われ、残業代は支払われず、サービス残業になる場合が多いこと。学習塾の新卒初任給は他業種よりも基本給または職能手当として1万円~2万円ほど高く設定されている(これが給特法の教職調整額に相当する)こと。以前の団体交渉で会社側が「残業代は職能手当に含んでいる」との回答に終始したことなどから推察できます。
また「給特法」の下では正規の勤務時間以外の労働は、すべて教員の自主的な活動と扱われるので、そもそも教員の総労働時間の管理・把握が欠落しています。これも学習塾業界において会社が社員の労働時間を管理・把握するという姿勢がいまだに希薄なことと共通しています。これらの例から「給特法」は公立校教員だけではなく、学習塾の労働環境にも大きな影響を与えていると考えることができます。
ここまでは自説ですが、私はeisuに入る前、80年代末から90年代半ば頃まで生徒数80名足らずの小さな個人塾を経営していたことがあります。当時は学習塾の交流会などにも参加していました。そこで知り合った何人かの学習塾経営者から「給特法」の話を聞いたことがあります。その時は何のことかよく理解できなかったですけどね。
サービス残業に関しては、細かいところはともかく、学習塾で働く人も公立校教員も同じ問題を抱えていると思います。このサイトは学習塾に勤務する塾人のためのサイトですが、将来的には公立校に勤務する教員の方とも情報共有や意見交換等ができればいいなと思っています。