例年5月以降になると、新卒や転職により4月から学習塾に入社し働き始めた塾人の方から『試用期間が終わった後、本採用されるのか?』という相談があります。学習塾を含む民間企業では試用期間は3カ月~半年程度の場合が多いと思いますが、私たちが把握している学習塾の例では試用期間を1年とする会社が多いです。また試用期間中の雇用身分を契約社員とするところも多いです。

 中には入社が確定した3月末に内定者だけを集めて入社後1年間を試用期間とする。試用期間中は契約社員とする。本採用の可否は1年間の勤務状態を見て経営者が決めると書かれた雇用契約書を配り、有無を言わさず捺印させる学習塾もあります。

 こうした求人詐欺まがいのやり方は昔はよく行われていました。今は改正職業安定法(2月19日の記事参照)が1月から施行されているので、内定前の会社説明会などであらかじめ試用期間中の労働条件が文書で提示されており、本人がそれに同意して入社を決めている場合を除いて、こうしたやり方は法律違反となります。

 したがってコンプライアンスを重視するまともな会社ならば今年からこういう方法は取らないと思いますが、皆さんの勤務する学習塾ではどうでしょうか?

月1日付での入社の場合、勤務する会社の試用期間が半年の場合は10月1日から本採用となります。もう10月半ばなので現在問題なく勤務していれば本採用されたことになります。試用期間が1年となっている場合は来年の3月末で本採用の可否が決まります。

 1年という試用期間は本人の人間性や適性を知るための期間としては常識的に見てかなり長く、何らかの意図を感じざるを得ません。

 入社後1年間は「試用期間中に解雇されたらどうしよう」「本採用されなかった場合、契約社員なので契約期間満了で解雇されてもしかたないのか?」と不安を感じながら勤務するのは、特に新卒で入社した社会経験の少ない若い社員にとってはかなり厳しいのではないでしょうか。実はこうした「試用期間1年・期間中の雇用身分は契約社員」という方からの相談が多いのです。

 そこで、試用期間中に会社から本採用しないと言われた場合、どのように対処すべきかを書いていきます。入社1年未満で試用期間中の方に向けた内容ですが、すでに本採用となって長年勤務している方にとっても、ワンマン経営者からの突然の退職強要などへの対処法として役立つと思います。

知っておくべき前提

 前提として、自分の勤務する学習塾の就業規則を確認します。就業規則には必ず「本採用手続」についての項目があります。ここにどのような条件が記載されているかを必ず確認します。一般的には『勤務態度・能力・人物・健康状態等に関し、社員としての勤務が不適当と認めた場合は本採用を行わない』と記載されていると思います。

 別に『本採用については、所属上長が可否を審議し経営者が決定する』との条件が書いてあることもあります。もし会社から本採用を拒否されたときは、会社がその根拠にするのは就業規則上の規定であることに留意して下さい。

 また試用期間中の解雇は正社員よりも簡単にできる(解雇要件のハードルが低い)と思っている人もいますが、だからといって会社が試用期間中に解雇したり、試用期間満了後に本採用拒否が簡単にできるかというと実はそうではありません。

 なぜなら会社に解雇したり正社員として本採用しない『社会通念上、客観的かつ合理的な理由』が必要となるからです。つまり会社の勝手な理由や曖昧な理由で解雇したり本採用を拒否することはできないと知っておきましょう。そしてこの『社会通念上、客観的かつ合理的な理由』は、配置転換など社員を人事異動させるときの要件としても必要です。

勤務態度等を根拠に不採用と言われた場合…

 もし経営者や所属上長からこのように言われたときには「自分のどのような言動について、どういう点で勤務態度が良くないのか具体的に言って下さい」と逆に質問します。勤務態度は個人の性格や考え方、行動様式と強く関連するので犯罪的行為でもしない限り、そのような曖昧な理由で本採用を拒否することはできません。

 このような場合は勤務態度等について直すよう繰り返し指導されていたかどうかがポイントとなります。試用期間中に勤務態度等について上長からその都度直すように連続して指導され、懲戒処分も受けているのにそれでも改めない場合を除いて、本採用拒否の理由として認められませんこの場合は「そのような抽象的理由で本採用を拒否されることは納得できないので従えません」と拒否し、すぐに私たちか、近隣のユニオン(一般労組)まで相談して下さい。

健康状態が勤務に適さないと言われた場合…

 法律上、会社は雇用する社員の健康状態や安全衛生に配慮して勤務させることが義務付けられています。このような場合は会社が社員の健康に配慮して配置転換や業務軽減等を行なっているかどうかがポイントとなります。社員の健康に配慮する措置も取っていないのに試用期間満了だからと言っていきなり本採用を拒否することはできません。

 判例(裁判例)によると入社以来半年以上入退院を繰り返した新卒社員の場合でも会社が本採用を拒否することはできないとの判決が出ています。もしこのようなことを言われたら「私は今まで通常に問題なく勤務していたので、そのような理由では納得できないので従えません」と拒否し、すぐに私たちか、近隣のユニオン(一般労組)まで相談して下さい。

業務能力を理由に本採用しないと言われた場合…

 学習塾でありがちなのが、保護者や生徒への対応が悪くクレームが多い。生徒の退塾が多い。担当教科の授業が下手で授業アンケートの結果が悪いというような場合に本採用しないと言ってくることです。このような場合は会社が社内研修を継続して行ない、業務能力の向上を図る機会を与えていたかどうかがポイントとなります。もし業務能力が会社の規定する水準に達していない場合、本来は社内研修でしっかりフォローすべきものです。研修もきちんとやってないのに業務能力が一定の水準に達していないと言って本採用しないというのは合理的理由にはなりません。

 少し話がそれますが、千葉県の市進学院のケースを考えてみます。東京東部労組に加入した市進学院の講師に対し、会社が担当する生徒の退塾者が多い(実際の退塾者は1人)、生徒のアンケート結果が悪いという理由で次年度の契約を更新しない旨を裁判で主張してきました。

 しかし裁判所は判決で、このような理由は『社会通念上、相当とは認められない』としてバッサリ否定しました。

 市進学院のケースは『組合員の解雇』を目的とした不当労働行為なので記事のテーマとは離れますが、裁判所が業務能力を理由とする解雇を否定したことに意義があると思います。

上長・経営者の判断により本採用しないと言われた場合…

これは就業規則に『本採用については、所属上長が可否を審議し経営者が決定する』との条件が書いてある場合に限定されますが、これを不採用の根拠にしてきたときは、どのような理由で自分を不採用にしたのか所属上長に具体的理由を説明させます。同時に同じ判断を下した他の上長の名前も聞いておきます。その上で経営者が最終的にどのような基準で自分の不採用を判断したのか具体的に聞きます。

 このような場合には、会社はおそらく説明自体を拒否するか曖昧な説明しかできないでしょう。採用の根拠も明確になっていない以上、こうした規定にもとづいて本採用を拒否することは実際にはかなり困難です。したがってこれも「そのような抽象的な理由で本採用を拒否されることは納得できないので従えません」と拒否し、すぐに私たちか、近隣のユニオン(一般労組)まで相談して下さい。

対処法7原則

上記の内容をふまえたうえで、最後に対処するときの心構えを記しておきます。最も重要なことは以下の7つです。そしてすぐに私たちか、近隣のユニオン(一般労組)まで相談して下さい。

① 絶対にその場で安易にYESとは言わない。強く言われても拒否する。

② 必ず1週間程度考えてから結論を出すと伝え、その場を離れる。

③ 会社が提案してきたとき(例えば、正社員での採用はダメだが契約社員なら良い)にも、絶対にその場でYESとは言わない。

④ その場で同意書などの文書にサインを求められても、絶対にサインしない。

⑤ 会社にできるだけ客観的な基準や根拠などを説明させる。

⑥ 所属上長や経営者に呼ばれたときは、会話をICレコーダーで録音し必ず記録を残しておく。レコーダーはできるだけ高性能のものを購入するのがおすすめです。

⑦ 自分に不利なことは自分からは絶対に言わない。バカ正直にならない。