人事異動のお話(前編)

全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。

もう3月末ですね~。今週からいよいよ春期講習がスタートします。大手進学塾で勤務する人も、中小規模の学習塾で勤務する人も、4月からの新年度に向けて新規入塾生を一人でも多く獲得するため日々奮闘していることと思います。

さて毎年この時期には次年度の人員配置を決めなければいけません。つまり新年度に向けた人事異動のシーズンでもあります皆さんの勤務する学習塾では新年度の人員配置はもう決まったでしょうか?来年度はどこの部署、校舎に配属になるのか・・どんな業務をすることになるのか・・どんな人と一緒に働くのか・・自分の勤務希望はかなえられるのか・・などなどいろいろと思いを巡らせている方もいるのではないでしょうか。

人事異動(配置転換・職種変更・出向・転籍など)にはいろいろな側面があります。一般的には社員の適性を考慮したうえで適材適所を実現するための異動や、社員の仕事上の希望をかなえるための異動などが考えられると思います。

しかし労働者の権利を守るために会社と闘争してきた労働組合からすると、ワンマン経営者が辞めさせたい社員を退職に追い込んだり、気に入らない社員の労働条件を引き下げたり、社内の労働組合員を弾圧するために人事異動の制度を悪用してきたという側面がどうしても気になります。

そもそもeisu社内にユニオンみえの分会として2007年にeisuユニオンが結成された原因は4月当初の人事でした(年俸制導入による賃金の大幅引き下げ問題もありましたが・・・)。その後労働組合に加入し公然化した社員も、組合加入の発端はみな人事の問題なのです。

 

嫌がらせとしての人事異動

学習塾に限ったことではないですが、ワンマン経営者が自分に逆らった社員や気に入らない社員を辞めさせるため、自分に逆らうとどうなるか見せしめの手段の一つとして人事異動を悪用するケースは多いです。 一般的には『報復人事』などと呼ばれることもあります。学習塾業界で長年勤務しているとワンマン経営者から『報復人事』をくらった経験のある人は少なくはないと思います。

厄介なことに一労働者の立場でこの報復人事に抵抗することは困難です。なぜならどこの会社の就業規則にも「(社が)業務上必要と認めた場合、人事異動(配置転換・職種変更・転勤・出向・転籍等)を命じることがある。社員は正当な理由がなければこれを拒むことはできない」という規定があり、一般的に社員は会社の指揮命令に従う義務があると解釈されるからです。

したがって会社の人事異動命令にどんなに不満や疑問があっても社員はそれに従わざるを得ないという立場に置かれます。しかも正当な理由がないのに会社の人事異動命令を拒めば懲戒処分になる可能性も考えられます。

このような要因により、会社から到底納得できない異動や、賃金・手当など労働条件の引き下げを伴う異動を命じられたとしても、懲戒処分の可能性を恐れて拒否できないために最終的には泣く泣く受け入れてしまう人が多いのです。ワンマン経営者はここをうまく利用します。いわゆる「ブラック企業」では経営者が気に入らない社員に対し無茶苦茶な人事異動命令を出し、少しでも拒めばここぞとばかりに懲戒処分してくることも珍しくありません。

学習塾で発生した報復人事の実例

学習塾で発生した嫌がらせの報復人事の実例を、当サイトへの塾人からの情報提供や相談事例をもとに列挙すると次のようなものがあります。なお相談者への聞き取りから、これらの人事が発令される背景に、相談者が会社(経営者)に職場の環境や労働条件の改善を訴えたり、会社(経営者)の方針に意見したり異議を唱えたりするなど、何らかの理由で会社(経営者)と対立していたことや、会社(経営者)からあまり好ましく思われていなかったという事実があります。

【一方的な配置転換】

①自宅からの通勤に片道2時間半以上かかる遠隔地の校舎に配転され、毎日自宅から通勤しろと言われた。毎日通勤に往復で5時間以上かかるので負担がかなり大きい。

②生徒数数百名の大規模校舎で教室長をしていたが、不採算校舎を君の力で立て直してほしいという理由で、生徒数50名未満の地方の小規模校舎の教室長に配置された。その結果、校舎の生徒数・売上に連動する手当や賞与が大幅に引き下げられた。

【一方的な職種・職位・雇用身分の変更】

③君には営業職が向いていると言われ、いきなり講師職から未経験の営業職に職種が変更され、賃金・賞与が大幅に引き下げられた。営業研修もまったくなかった。

④地域の基幹校の責任者と複数の教室を統括するエリアマネージャーだったが、一方的に降格され、小さな個別指導教室での勤務を命じられた。職能給、手当が大幅に引き下げられた。

⑤教室長をやっていた時に病気で1週間程入院したが、翌年教室長を解任され平社員に降格された。会社に理由を聞いたら「自己管理もできない人に教室長はやらせない」と言われた。

⑥再雇用社員。契約更新時に会社から月給制の契約社員ではなく時間給のアルバイト待遇での勤務を強要され、断ると更新しないと言われたので契約書にサインした。

【子会社への転籍、退職強要】

⑦本社に呼ばれて役員数人で囲まれ、グループ企業(子会社)への転籍同意書に無理やりサインさせられ転籍した。その結果賃金が大幅に減額され年収が約4割減った。

⑧突然本社に呼ばれ役員数人で囲まれ、今後あなたにやっていただく仕事はない。あなたを引き引き取る部署もないので別の会社で働いてはどうかと退職届へのサインを強要された。

①は労組結成前のeisuでもありました。校舎の展開エリアが広い大手学習塾で社員を自主退職させる手段です。②や④は40代以上の高賃金のベテラン社員をリストラする手段として使われます。⑥の再雇用社員(60~65歳)に対する契約更新時の労働条件引き下げ強要はもはや定番でしょう。eisuでも数年前にこれと同じ事例がありましたが団体交渉とストライキ通告で撤回させました。

⑦や⑧のように社員1人を本社に呼びつけ4~5人の役員(経営者も入る場合がある)で囲み圧迫面談して不利益変更や自主退職を強要する方法もあります。このような状況で冷静な判断を保ちながら会社と交渉できる人はほとんどいないでしょう。なお⑧と同様な事例は労組結成前のeisuでもありました。思えばこれが鈴鹿英数学院内にeisuユニオンが結成された直接のきっかけとなりました。

報復人事への対抗は労働組合の「力」が必要

学習塾でも社内に労働組合がなくワンマン経営者ひとりに権力が集中しているような職場では、嫌がらせを目的とする報復人事があからさまに行われる危険性が高いです。このような職場では一社員が個人で直接経営者に職場環境や労働条件について改善を求めることはかなりリスクのある行為です。また報復人事はワンマン経営者が一度やると決めたら会社は組織的にやってきます。

会社の役員や直属の上司も報復人事に加担してきます。場合によっては同僚も加担してくるかもしれません。なぜなら経営者に逆らえば今度は自分が報復人事の対象になるからです。誰でも自分の身が大事ですからね。だから個人で会社組織に対抗することは困難です。したがって地域のユニオン(一般労働組合)に加入し、労働組合として対応するのが会社からの報復人事に対抗するためにも賢いやり方です。当たり前のことですが「組織」には「組織」で「力」には「力」で対抗するのがいちばん効果的なのです。

一つ注意点があります。報復人事をめぐるトラブルは「民事案件」となり、原則として労働基準法や労働契約法の対象外です。したがって労働基準監督署に相談しても解決に動いてはくれません。 逆に「不満があるなら会社と裁判してください」と言われて終わりです。裁判には多くの費用と時間がかかります。また裁判しても会社に勝てるかどうかは未知数です。ここにも会社から納得できない人事異動を命じられた人が、内心不満に思いながらも結局それを受け入れてしまう原因があります。

実際には報復人事を含む人事トラブルに迅速に対処し解決できるのは労働組合だけなのです。

後編では、会社(経営者)による嫌がらせを目的とする報復人事(配置転換・職種変更・転勤・出向・転籍等)に対処するにはどのような点に注意すべきか? 押さえるべきポイントは何か? についてお話します。

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