人事異動のお話(後編)

全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。お久しぶりです。

元号が令和にかわってからの初めてのブログ更新となります。4月に入り本業が多忙になったことに加え、公然化組合員の次年度の雇用条件問題をめぐり会社と団体交渉を行うなどいろいろなことがありブログを更新できずにいました。公然化組合員の雇用条件問題も解決し本業も落ち着いてきたので前回の続きとして会社の報復人事への対応法について書いていきます。

報復人事を見極めるポイント

前回のブログでも指摘したとおり、一般的には会社には指揮命令権があり社員はその指揮命令に服するべきだと解釈されます。 ですから会社が発令する人事異動命令についてはそれが特定の社員への報復や嫌がらせを目的とするものだったとしても、それを社員が理由なく拒否することは困難です。

しかし会社が労働者に労働条件の著しい変更を命ずるには、会社側に『社会通念上、客観的かつ高度な合理的理由』が必要です。この理由とは人事異動の対象となった社員を含めて誰もが納得できる客観的な理由でなければならず、「チャンスを与える」「新しい業務で頑張れ」「この業務が向いている」といったような理由では『客観的かつ高度な合理的理由』にはなりません。 また著しい労働条件の低下や負担の増加を伴う人事異動を発令した場合は、会社には一定期間それを緩和する措置が求められます。

したがって本人が希望してもいないのに会社から一方的に労働条件の著しい低下や負担の増加を伴う人事異動を命じられ、緩和措置もまったく取られていない場合には『報復人事』『嫌がらせ人事』である可能性が高いと思います。つまり人事異動の目的を見極めるためには次の2つのポイントがあります。
① 客観的かつ合理的な理由に基づいているか。

② 労働条件の不利益変更に伴う緩和措置が取られているのか。

この2つのポイントをうまく見極めることが報復人事への対抗手段につながります。それではケース別に説明します。

人事異動を行う合理的理由の成立要件

人事異動には、教務職から一般職、事務職から営業職へ仕事内容が変更される職種変更や、勤務校舎や部署が変更される配置転換などがあります。職種変更や配置転換について会社には指揮命令権があり社員はそれに従うべきであると解釈されますが、会社にも社員に職種変更や配転を命ずるための「客観的かつ高度な合理的理由」が必要です。これが成立する要件がいくつかありその要件を満たしていないと裁判などでは職種変更や配転命令は無効と判断される可能性が高いです。以下はその要件です。これらをよく頭の中に入れておいて下さい。

職種変更や配転を命ずる対象者の選定が客観的かつ合理的なこと
たくさんの社員の中から、なぜ自分が選ばれたのかを会社は客観的に説明できなければダメです。

職種変更や配転を命ずる業務上の必要性があること
これは会社がその社員に対し、職種変更や配転命令を出さなければいけない業務上の必要性の有無を言います。業務上の必要性が低い場合は報復人事の可能性も否定できません。

職種変更や配転の目的が、悪意あるものではないこと
特定の社員への「嫌がらせ」や「追い出し」が目的の人事異動でないことを会社は客観的に証明できなければいけません。悪意にもとづく人事は労働組合員に対して行われる場合も多く労使紛争や裁判闘争の原因になることも多いです。

不利益変更を伴う場合、会社は緩和措置を取っていること
職種変更や配転命令の結果、その対象者の労働条件が著しく低下する(不利益変更)場合は、たとえば賃金や手当を優遇したり、労働時間を減らしたり、業務研修を行うなど何らかの配慮を会社が行なったのかということです。

会社から無理な職種変更や配置転換を打診されて悩んだら、これら4つの項目について「職種変更・配置転換の合理的理由」と労働条件の変更を伴うのかについて会社に説明を求めましょう。納得いかない場合は私たちか近隣のユニオン(一般労働組合)まで相談を。

遠隔地の校舎に配置転換された

自宅から勤務場所までの通勤に片道2時間以上かかる校舎に配属された場合、毎日の通勤だけでかなりの負担になります。これは業務に起因性のあることなので会社には労働者の負担を軽減するため何らかの措置をとることが求められます。

具体的には勤務地での出勤時間を遅らせたり退社時間を早めたり、時間外勤務を軽減したりする措置。すべての勤務日が自宅から遠隔地の校舎の場合には勤務校舎の近くに会社負担でアパートを借りてもらうなどが考えられます。以上のような負担軽減措置を会社に要求しましょう。もし会社に拒否されたら私たちか近隣のユニオン(一般労働組合)まで相談を。

出向または転籍になった

大手学習塾の場合は子会社が複数集まり全体として一つのグループ企業になっていることがあります。たとえばグループ内のA社から別のB社に異動するといったように勤務する会社(法人)が変わる場合がこれに該当します。注意すべきなのは「出向」「転籍」の2種類があることです。

出向とは異動前(元の勤務先)の会社に社員として在籍したままグループ内の別の会社で勤務することです。賃金などの労働条件は元の勤務先の条件が適用されます。したがって賃金は出向した会社からではなく元の勤務先から支払われます。

転籍とは異動前(元の勤務先)の会社をいったん退職し、グループ内の別の会社に就職することを意味します。したがって転籍の場合は賃金などの労働条件は次の勤務先での条件が適用され、元の勤務先とは一切関係がなくなります。社員の労働条件を引き下げるために転籍を悪用する会社もあります。

転籍の場合は労働条件の大幅な変更になるので必ず本人の文書による同意が必要になります。昔の話ですが会社から圧迫面談を受けて転籍を求められ同意書にサインしてしまい、賃金や賞与が大幅に下げられた事例もあります。そして一度転籍を認めてしまえば裁判をしても覆すことは困難です。

出向や転籍の場合は事前に打診があるはずなので、もし会社からグループ内の別の法人への異動を打診されたら、それは「出向」なのか「転籍」なのか、労働条件はどうなるのかを聞き、できれば文書で回答するよう会社に要求して下さい。また会社の提示する同意書には絶対にその場で安易にサインしてはいけません。すぐに私たちか近隣のユニオン(一般労働組合)まで相談を。

それから、会社から毎月もらう給与明細のどこかに自分が現在在籍する法人名が記載されています。ここに記載のある法人が給与の支払い元になります。これについても身に覚えがないのに勤務する法人名が急に変わっていたりした場合は会社に説明を求めましょう。納得いかない場合は私たちか近隣のユニオン(一般労働組合)まで相談を。

不当人事への泣き寝入りはやめよう

学習塾に限ったことではありませんがワンマン経営者の権力が強く経営者がすべてを決めているような会社では、職場での単なるうわさや上長が気に入らない部下を追い落とすためにネガティブな情報を経営者に誇張して伝えたことによって退職強要されたり労働条件の低下を伴う異動命令が出されたりすることもあります。ここから報復人事や嫌がらせ人事が発生しやすい職場の特徴として次のポイントがあります。

①  人事考課制度がない。あってもほとんど機能していない。

②  職場の隅々のことまでワンマン経営者が判断・決定する傾向が強い。

③  職場内で『人のうわさ』『自分への周囲の評価』を気にする社員が多い。

近年、退職強要を含む会社からの不当な人事異動命令を『パワハラ』とする考えも広がっており専門の弁護士もいます。ユニオン(一般労働組合)でもこうした不当人事に関する労使紛争・解決事例がかなり増加しています。

eisuでもひと昔前は社員の意思を尊重しない一方的な人事異動や嫌がらせ人事が行われていた時代もありました。現在では労働組合が存在するので以前のようなことはなくなったと思います。最近では異動の対象者にあらかじめ打診と面談による説明・意見聴取が行わるようになりました。以前よりずいぶん良くなったと思います。

過去の人事異動をめぐる団体交渉で会社は「人事異動による職種や労働条件の変更は総合職で採用されている限り正当であり、銀行などでは転勤、出向、転籍は当たり前のように行われている」と言ったことがあります。これに対し当労組は「このような企業では転勤、転籍、出向などが総合職の社員全員に定期的に行われ、採用時にも説明され、賃金や労働条件などもそれに基づいて制度設計されている。eisuではそうなってないじゃないか!」と反論したら黙ってしまいました。会社(経営者)は社員にどんなことでも命令でき、社員はそれに従うべきだという考え方は間違っており、時代錯誤だと思います。

塾人の皆さん。納得のいかない、疑問がある人事異動を会社から求められた場合はすぐに同意しないことが大切です。安易に受け入れると取り返しがつかなくなる場合もあります。また証拠として録音記録は必ず取るようにしましょう。不当人事を受けたときは決して泣き寝入りせず、ぜひ私たちか近隣のユニオン(一般労働組合)に相談して下さいね。

 

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