年次有給休暇(年休)取得の義務化

 全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。

 今年の4月1日から働き方改革関連法が順次施行されています。その中で、特に重要なのが「年5日の年次有給休暇取得の義務化」です。これは年次有給休暇が10日以上付与される労働者(教室責任者などの管理監督者や契約社員などの有期雇用労働者。パート・アルバイトなども含まれます)に、年5日以上の年次有給休暇を確実に取得させることを法律で義務付けるものです。

 改正された労働基準法第39条では、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、付与日数のうち年5日分については、使用者(会社)が取得する時季を指定して取得させることが必要になりました。これは企業規模に関係なく4月1日から適用され、違反すれば30万円以下の罰金などが科せられます。

   この背景として日本の労働者の年休(有給休暇)取得率が世界的に見て低いことがあげられます。昨年発表されたエクスペディア・ジャパンの国際比較調査の結果では、日本は世界19か国の中で、年休取得率と取得日数の両方で3年連続最下位です。 日本の年休取得率は約50%(他国は100~70%)で取得日数も10日と、諸外国と比べ低いと言わざるを得ません。

 政府は低い年休取得率を底上げするため労働基準法を改正し、この4月から使用者に年5日以上の有給休暇取得を義務化することになったのです。つまり労働者に強制的に年休を取らせることを法律で規定したということです。

   これからは雇用する労働者で要件を満たす対象者に、年5日以上の年休(有給休暇)を取得させなかった場合には、使用者(会社)は労働基準法違反に問われることになります。使用者が『誰も年休を申請しなかった』と言うのは理由にはなりません。それこそ業務命令を出して強制的に休ませないと法律違反になります。

 労働基準法第39条では、労働者の心身の休養を図るため、一定の要件を満たす労働者に、毎年一定日数の年次有給休暇を付与することを規定しています。でも現実問題、学習塾で労使対抗型の労働組合があるところはほとんど皆無です。数十日に及ぶ連続勤務や長時間労働、ワンオペ校舎での過酷なワンオペ労働が常態化しているような学習塾では有休など取れない・取らせてもらえないという意見もよく聞きます。

 こうした学習塾ではワンマン経営者の方針により会社が社員の年休取得を妨害してくることもあります。今後こういう会社は人材が集まらず、企業としての事業継続が困難になっていくと思います。

これで年休(有給休暇)は取りやすくなるのか

 では、これにより学習塾で働く塾人が年休(有給休暇)を取りやすくなり、休める日数も増え、塾人がみんなハッピーになれるかというと、残念ですがそうは思いません。会社任せにしていては年間公休日数が減り、かえって年休が自由に取れなくなる可能性もあります。

 改正された労働基準法第39条では、取得が義務化された5日分について、使用者が取得する時季を指定して取得させるという原則になっています。ここから次のようなブラック経営者の手口つまり法の抜け道が考えられます。

 たとえば経営者が、前年度に公休日(日曜や祝日・GW・お盆・年末年始など)だったところに5日分の年休(有給休暇)を含めて指定してくることです。これだと年間の公休日数が増えないばかりか、逆に労働者が自由に使える年休の日数が減ってしまいます。また『計画年休制度』を不正に導入して前年度公休日だったところに5日分(またはそれ以上)の年休日数を含ませておき、労働者が自由に使える年休の日数を減らすやり方もできます。

 こうした方法を経営者が取れば、表向き勤務する社員の年休取得率をアップさせることができるので、うちは社員の年休取得率が高いホワイト企業だ!というウソが公然と言えます。また労働基準法違反にも問われません。したがって制度を悪用すれば会社が社員の自由な年休取得を妨害し、かつ年間の公休日数を減らすことも可能なのです。

 実はeisuもかなり昔は社員の年休の付与日数がどんなに勤務年数が長くても最大5日までだったこと(使わなかった前年度の年休の繰り越しもなかった)がありました。その頃、会社に「これは労働基準法違反では?」と聞いたところ「eisuは計画年休制度を導入しているので法律違反ではない」と説明されました。

 まだ労働組合活動する前だったし労働法の知識もほとんどなかったのでその時は納得してしまいましたが・・その後に会社と闘争する過程で労働法や労働判例などを勉強したことで、このときの会社の説明が真っ赤なウソだったことがわかりました。やはり労働法の知識があるのとないのとではまったく違うんだな~と実感しています。

 会社が計画年休制度を導入する場合、いくつかの要件をクリアする必要があります。ですからワンマン経営者が労働者の同意を得ず一方的に制度を導入することは法律違反となります。計画年休制度の悪用の仕方と注意点については2017年10月5日のブログ『学習塾の休日・休暇の見極めかた』をお読みください。

年休(有給休暇)取得義務の実施要件

 さすがに厚生労働省も使用者(会社)が計画年休制度や時季指定を悪用する場合を想定しているようです。実施するにあたり次のような要件を提示しています。学習塾で働く皆さんは、会社の方針や実施方法について以下の要件を満たしているかどうかを必ずチェックしておきましょう。満たしていない場合は違法となる可能性が高いので、私たちか近くのユニオン、所轄の労働基準監督署、労働者側弁護士などに相談を。

使用者は労働者の意見を聴取すること。

 使用者が時季を定めるにあたり、面談、年休取得計画表の提出、メールなどを用いてあらかじめ労働者からの意見を聴取することを必要とし、当該労働者の意見を尊重するよう努めなければならない

使用者が一方的に取得日を決めることはできない。

 意見聴取の結果、使用者が労働者の意向を無視して一方的に年休取得日を指定することはできない

年5日を超える部分について、使用者の時季指定はできない。

 年5日の年休取得は、使用者による時季指定、労働者自らの請求、計画年休のいずれかによって労働者に年5日以上の年休を取得させればよい。これらのいずれかの方法で取得させた年休の合計が5日に達した時点で使用者から時季指定をする必要はなくなり、また、することもできない

年次有給休暇管理簿を作成して保存しなければならない

 年5日以上の年次有給休暇取得義務実施において、使用者は、労働者ごとに時季(年休を取得した日付)、年休の取得日数および基準日を明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し、当該年休を与えた期間中および当該期間の満了後3年間保存しなければならない。

違反すれば、使用者(会社)に罰則も

 使用者(会社)が「年5日以上の有給休暇取得義務付け」に違反した場合、罰則が科されることがあります。『罰金30万円なんて屁でもない』と思っているブラック経営者もいるかと思いますが、罰則による違反は対象となった労働者1人につき1罪と扱われるので、対象労働者の人数が増えれば金額も当然増えます(例 10人 ⇒ 罰金300万円 100人 ⇒ 罰金3000万円)

 したがって使用者が甘く考えていると、高額な罰金の支払い、企業名の公表、従業員との労使紛争、ブラック企業としてSNSなどで汚名が拡散する。などの高いツケを払わなければいけなくなります。以下に罰則の内容を記しておきます。

使用者が労働者に年5日の有給を取得させなかった場合

労基法第39条第7項違反により、30万円以下の罰金が科されます(労基法第120条)

年次有給休暇取得義務付けに関する規定を就業規則に記載していない場合

労基法第89条違反により、30万円以下の罰金が科されます(労基法第120条)

労働者の請求する時季に所定の年休を与えなかった場合

労基法第39条(第7項を除く)違反により、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます(労基法第119条)

eisuの現状と今後の課題

 現在eisuでは、当労働組合が把握している範囲では社員の年休取得については労働基準法の規定通りに実施されています。会社からの有給休暇の取得妨害もありません。本年度からスタートした「年5日以上の年次有給休暇取得義務付け」に関しても、当労組は現在、会社から、全社員に来年3月末までに年5日以上の有給休暇を確実に取らせるようにするとの回答を得ており、これに関する就業規則の規定の修正などを協議しています。

 しかし一方で模擬試験や各種イベント等で公休日に休日出勤した場合、勤務校舎や部署によっては代休が取れない。会社から代休取得の指示がないなどの意見も社内からあがっています。年5日以上の有給休暇取得義務付の実施も大切ですが、同時に社員が休日出勤した場合、対象者すべてが代休を確実に取れるようにすることも労働組合として急務だと考えます。今後、当労働組合はこの問題の改善について会社と協議し改善を要求していく方針です。

 学習塾で働く塾人の皆さん。4月1日からの「年5日以上の有給休暇取得義務付け」に関して、会社の方針や年休の取得方法に疑問や不満を感じたら、ぜひ私たちか近くのユニオンまで相談してください。

 なおその際には必ず自分の実際の勤務日と労働時間、社内通達などのメール文や配布文書、経営者や役員の発言記録などの証拠をできるだけ保存し提示できるようにしておくことをおすすめします。