学習塾で働く塾人の皆さんへ。新しい年になってからの最初の投稿です。今年もeisuおよび学習塾業界の労働環境向上のために、活動を進めていきます。

ワンオペ校舎での過酷な労働

 以前、学習塾で数十日に及ぶ連続勤務が発生する背景についての記事を書いたときに、その背景のひとつとして近年学習塾の業態として個別指導教室が増加し、そこでは人件費を圧縮するため原則1人の正社員が1つの校舎のすべての業務をまわすワンオペ労働が常態化していることを指摘しました。

 こうしたワンオペ校舎では教室責任者である正社員スタッフが生徒への学習指導だけでなく教室運営、各種説明会、保護者対応、ポスティングやチラシ配布、生徒募集などの営業活動まですべての校舎業務を1人で行うことが求められ、校舎で1人の正社員が負担する業務や責任の範囲がとてつもなく大きくなっていることが過酷な連続勤務や長時間労働の背景になっています。

 ワンオペ労働をなくすには、1校舎で働く社員やアルバイトの数を増やし社員1人あたりの業務量を減らし適正化すれば簡単に解決できます。しかし新たに正社員やアルバイトを雇えば人件費がかかります。少子化で今後の飛躍的な売上増加も見込めない場合、会社(経営者)としては人件費の増加は営業利益・経常利益のさらなる減少をもたらすのでそう簡単に人を雇うことはできません。

 したがって現場社員が『業務が過大で休日返上や長時間残業してもとても一人ではこなせない。もっと人を増やして下さい』と会社(経営者)に懇願したとしても、『あなたの業務能力が劣っているからだ』と無能扱いされるか、『生徒のことを思うなら教室責任者として一人で頑張れ!』と責任転嫁されるか。『あなたには教室長は務まらないので降格する。賃金も減らす』と脅されるだけで、業務の改善を何度も繰り返し訴えたとしても現場社員の業務負担を減らすような方向には動いてくれないのではないでしょうか。

 このような状況が続くかぎり今後も過酷なワンオペ労働はなくならないと思います。ワンオペ労働をこのまま継続していけば、またどこかの学習塾で精神疾患で働けなくなったり過労死する社員も出てくるかもしれません。

ワンオペ校舎の労働実態はコンビニと同じ

 話は変わりますが、今年に入り大手コンビニチェーン各社が全店舗での24時間営業を見直すことがメディアで報道されていますが、このきっかけとなったのが東大阪市にあるセブン―イレブンの店舗オーナーが本部の指示に反して24時間営業をやめ、深夜~早朝は休業としたことが発端となったことは塾人の皆さんもご存じだと思います。

 重要なことは、この店舗のオーナーが営業時間を短縮する理由を顧客やメディアなどの外部に発信したことです。これはオーナー自身の顧客への誠意ある対応だと思いますが、同時にコンビニオーナーの過酷な労働実態が世間に広く認知されるようになり、この結果としてコンビニ各社も全店舗一律の24時間営業を見直そうとする動きが出てきました。

 またこの出来事が発端となり各社のコンビニオーナーが加盟する労働組合コンビニ加盟店ユニオン(2009年にセブン加盟店オーナーを中心に結成)も全国にその名が知られるようになり、ユニオンに加入するコンビニオーナーも増えているようです。

 学習塾はコンビニとは異なる業界ですが、ワンオペ校舎で長期の連続勤務や長時間のサービス残業をこなさないと業務が回らない。会社に何度も業務改善を掛け合ったが放置され現場スタッフの増員も認めてくれない。SOSを出しても誰も助けてはくれず、結局すべての業務と責任を自分一人が背負わねばならない。このまま働き続ければ倒れてしまうほど追い詰められているならば、ワンオペ校舎でのワンオペ労働はその過酷さの度合いから考えてもコンビニオーナーの労働実態と何ら変わりはないと思います。

 東大阪市のセブン店オーナーが、自分の心身がこれ以上の過酷な労働やストレスによって破壊されるのを防ぐため、独自の判断(本部の方針に逆らってまでも)で24時間営業を短縮した報道を見て、一つ考えたことがあります。

 それは、もし勤務する校舎での自分の労働実態がコンビニオーナーと同じ状況にあり、会社に要請しても改善がまったく見込めないのであれば、一つの手段としてこのセブン店のオーナーと同じことをワンオペ校舎の教室長が行なったらどうかということです。

 つまり、会社に現場での過酷な労働を改善するよう訴えても何も解決しないのであれば、自分が働くワンオペ校舎での業務負担を軽減するため、教室に通う顧客である生徒や保護者に直接説明し、納得と同意を得たうえで協力してもらうという方法です。ワンオペ労働をめぐる学習塾業界の意識を変えるための一つの策として必要かと思います。

会社にワンオペ労働をやめさせるための手段

 ポイントは保護者や生徒、メディアなどを含むできるだけ多くの人にワンオペ校舎での過酷な労働実態を知ってもらうこと。勤務校舎で自分に起こっている事実(会社の対応も含めて)を全国に発信できる体制を整えることです。つまり、できるだけ外部の第三者を巻き込むことです。そのためにあらかじめ外部の専門家(ユニオン・労働者側弁護士など)に相談し、うまくやる方法をアドバイスしてもらうことも大切です。

【第1段階】

 最初に、ワンオペ校舎での自分の現在の過酷な労働実態と会社がそれを改善しようとしないこと。これまでの会社との交渉の経緯などを記した文書を作成します。文書には現在の自分の業務が長期の連続勤務と長時間労働を前提としなければ成立しないこと。会社に業務軽減や現場スタッフの増員をたびたび要請しても取り合ってもらえないこと。現状のままでは自分が精神疾患になるか過労死する可能性が高く、心身の休養を確保するため、会社が早急に業務改善策を取らなければ、一時的に校舎の開校時間を短縮する可能性があること。この問題について生徒・保護者への説明会を近日開催することなどを事実に基づき記載します。

 そして期限を設け、期限までに会社から業務改善策についての回答を必ず文書で出すように要求します。注意点は、回答は電話などではなく必ず文書(メール文も含む)で出させること。 その際には経営者や執行役員などの名前を必ず文書のどこかに記載させるようにしてください。経営者・役員等の名前が記載されていないものや、電話などでの回答は一切受け付けないという条件も文書に必ず記載しておきます。そしてこの文書をメール等で会社に送ります。

 こうすれば会社は驚いて何らかの対応策を取ってくると思います。これでも会社が対応策を取らない場合や、対応策を取っても見せしめとして教室長の解任や降格による賃金引下げなど懲戒処分をにおわせてくるような場合は次の段階に進みます(会社が信用できない場合は、ここをすっ飛ばしていきなり第2段階から開始するのもありだと思います)

【第2段階】

 最初に会社に送った文書に、文書を送った後の会社の対応(無視した。文書の送付を原因に出勤停止や教室長解任などの懲戒処分をしてきた等)を追加した新しい文書を作成し、この件について〇月〇日に校舎での説明会を開催する旨を教室に通う生徒とその保護者、メディア各社に送ります。同時にこれまでの経緯と説明会の開催を告知する文書を教室の入口に掲示します。

【第3段階】

 校舎に保護者・生徒を集めて説明会を開き、そこで直接保護者・生徒に再度、自分の現在の労働状況とこれまでの会社の対応を具体的に説明し、過酷な労働により心身の破壊を防ぐため、その改善に協力していただくよう誠意を持って訴えます。同時にメディア各社への記者会見を開きます。保護者・生徒に協力してもらう内容は以下の3点です。

① 業務を効率化し所定労働時間外の校舎業務(サービス残業)は原則行わない。不要な業務は会社の方針に反しても廃止する。

② 自分の公休日に校舎が開校しているとき、校舎運営は終日アルバイトを含む他のスタッフに任せ、自分は公休日なので出勤しない。会社に要請してもスタッフが確保できない場合は閉校とする場合もある。

③ 自分の公休日にイベント・説明会等で休日出勤した場合は必ず別日に代休を取る。代休日の校舎運営は終日他のスタッフに任せる。会社に要請してもスタッフが確保できない場合は閉校とする場合もある。

 あくまで自身の身体・精神の休養を確保するため、校舎での長期の連続勤務、公休日のサービス出勤や長時間のサービス残業をやめることが中心となります。 過酷な労働によりこれ以上自分の心身が破壊されるのを防ぐため、業務を効率化し自分の所定労働時間の範囲で業務を行うということなら会社からの賃金引下げは難しく、保護者・生徒からの同意も得やすいのではないかと思います。

 中には無責任だと怒って生徒を退塾させる保護者もいるかもしれませんが、普段の業務の中で生徒や保護者からの信頼を得ていれば賛同してくれる方も多いのではないかと思います。何よりもまず第一に考えてほしいのは自分の心身の健康と、生徒へのサービスのどちらが大切なのかということです。もし自分が精神疾患や過労で倒れてしまったら、目の前にいる自分の顧客(生徒)へのサービスを継続できるはずがないでしょう。どちらが大切かは明白です。無責任なのは、こんな状況になるまで社員を放置し追い詰めた会社のほうでしょう。

会社(経営者)にもリスクを負わせるべき

 もし社員がこんなことをすれば会社のメンツは丸つぶれです。 こうした現場社員の「反乱」は学習塾経営者がもっとも恐れることの一つです。当然ながら会社は懲戒解雇や損害賠償請求をしてくるでしょう。そういう意味ではユニオン(一般労働組合)に加入せず一社員の立場で行うにはリスクが高い行為だと言えます。

 しかし文書をメディア各社に送り、記者会見も開いているので、同時にその社員が勤務する学習塾での過酷なワンオペ労働の実態が世間に知れわたることにもなります。したがって会社がその社員を解雇したり訴えることは、学習塾を経営する会社や経営者にとっても世間の評価というリスクを背負うことになります。

 また上記①~③の内容は、自分の心身休養のために現場での勤務時間を自分の所定労働時間に合わせる。自分の公休日や代休日には他のスタッフに任せるが、会社に要請してもスタッフが確保できないときはやむを得ず閉校にする。と保護者・生徒に協力を要請するものであり、本来自分のやるべき業務を放棄することにはなりません。糾弾されるべきは所定労働時間ではやりきれないような過大な業務と責任を1人の社員に押しつけ追い詰めた会社でしょう。

 したがって実際に裁判になったとしても果たして会社の懲戒や損害賠償請求が裁判所で認められるかどうかも疑問です。世間からはむしろ過酷なワンオペ労働(しかも残業代未払い)で社員をここまで追い詰めたブラック学習塾として全国にその名が認知されるのではないでしょうか。

 コンビニチェーン各社が全店舗一律の24時間営業の見直しに舵を切ったのも、コンビニ労働の過酷さやコンビニ会計など業界特有の実態が白日のもとにさらされたからかもしれません。もしどこかの学習塾で同じことが起こったとして、セブンーイレブンの事例のようにそれが発端となって学習塾業界の意識変革や労働環境改善の方向に向かうきっかけになるかもしれません。一時的に学習塾業界は大きなダメージをくらうかもしれませんが・・・

 少し過激だと思う塾人の方もいると思いますが、学習塾業界の意識や体質を変えワンオペ校舎での過酷な労働をなくすためにはこのような荒療治も必要だと思います。一つの意見として塾人の皆さんに考えてもらうきっかけになれば幸いです。

 eisuワオ市進学院のように社内に労使対抗型の労働組合が存在・活動している学習塾では校舎での過酷なワンオペ労働は発生しにくいと思いますが、 ほとんどの学習塾には労働者の立場に立つ労働組合がありません。 私たちは長期連続勤務や長時間労働の温床になっているワンオペ労働をなくすには、できるだけ多くの学習塾の職場にユニオンによる労働組合を結成し全国規模で連帯していくことが必要だと考えます。

 塾人の皆さんの中で、ワンオペ校舎で精神疾患や過労死寸前まで業務に追い詰められている方がいれば、私たちか、お近くのユニオン、労働者側に立つ労働問題専門の弁護士まで相談してください。力になりますよ。