有給休暇申請届に細かな理由を記入する必要はあるか?

eisu社員および全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。
前回のブログで、当労働組合は社との労使交渉の結果として、コロナワクチン接種に関する社の方針、またえいすう社員がコロナワクチンを接種するため仕事を休まねばならない場合の取り扱いについて書きました。ポイントは次の4つになります。
1.社として職域接種は行なわないという方針であること。
2.特別休暇の付与ではなく有休休暇申請で対応すること。
3.社員がワクチン接種のため有休申請するときの留意事項。
4.社は7月初旬までに、上記内容を全社員にメールで通達し告知すること。
7月3日通達に関する社員からの疑問
そして7月3日の午後に、上記内容について社から「新型コロナウイルスワクチン接種について」と題する8項目の通達が全社員にメール配信されました。しかしながら通達の配信直後より、この通達内容を見た社員の方からの意見や疑問が当労組に多く届きました。
前提として、7月3日に配信された通達の一部を引用します。通達文は全部で8項目ありますが、ポイントとなるのは第2項と第7項です。特に下線部に注意して下さい。
(2)自己責任において接種してください。eisuとしては社員に接種を強要することはありません。また接種の有無で差別的に扱うことはいたしません。
(7)接種状況の把握のため有給休暇申請の際、取得理由に「ワクチン接種(第1回 / 第2回)のため」と記載してください。何らかの事情でそれがはばかられる場合は、本社労務担当に個別にメールで知らせて下さい。
この通達を見たえいすう社員の方から届いた意見は大きく分けて次の2つです。
1.通常の有給休暇で申請するのに届出書の取得理由に「コロナワクチン接種(第1回/第2回)のため」と具体的に記入させるのはおかしいのではないか?
2.(2)で「接種の有無で差別的に扱うことはいたしません」と言っているのに(7)では社員の接種の有無に関する個人情報を社は把握しようとしている。社は個人情報を集めることで社員を差別的に取り扱うのではないのか。これはワクチンハラスメント(ワクハラ)につながるのでは?
実際、通達文(2)と(7)を合わせて読むと、社員個人の接種状況(個人情報)を社が把握し、接種しない社員には何らかのペナルティを与えるのではないかと危惧する社員がいたとしても不思議ではありません。
つまり(2)と(7)の整合性が取れていないことが問題の原因です。また(7)の「接種状況の把握のため」「何らかの~知らせて下さい」という文章も、これを読んだ人が会社が個人のワクチン接種情報を半ば強制的に集めるのではないかと不安に思うのも無理からぬことだと思います。
通達文を読むと、まるで業務命令のような上から目線の書き方で、「自己責任において接種してください」等の突き放したような表現も見られ、全体として冷たい印象を受けます。読んで不快に感じた方もいるのではと思います。
しかしながら、この通達文について、社との交渉主体である当労組の見解は通達文中の文言・表現等が社員の誤解を招いてしまったと判断しています。
当労組は社の労務担当者との交渉の中で通達内容は事前に十分協議しており、社員に不利益になる内容であれば絶対に受け入れません。特にワクチン接種のため社員が有休を取得するケースについては実際かなり密に協議しています。
真相を明かせば、7月3日のコロナワクチン接種に関する全社員通達は、当労組が実際に交渉した本社労務担当からではなく、本社マネージャーから配信されています。そして当労組、本社労務担当、通達配信者の3者で、通達が全社員に配信される前に、あらかじめ通達文の文言や表現等をどうするかを協議していなかったというのが事実になります。
今思えば、通達文を事前にしっかりとすり合せしておけば、社員に余計な不安や誤解を与えるような内容にはならなかったと思います。この点は当労組も少し反省しています。
では、通達の項目(7)が、なぜあのような文言になったのか。これについて本社労務担当との交渉内容も含めて赤裸々に書いていきます。
でもその前に、従業員が有給休暇を取得する際に提出する届出書に、そもそも有休の取得理由を細かく記入する必要はあるのでしょうか?
会社が有休の理由を細かく書かせるのは違法
従業員に有給休暇を使わせない学習塾は実際多いです。こうした学習塾では従業員に有休を申請させないようにするため、届出書への記載条件を厳しくしている会社もあります。
当労組が把握している他塾の例として、たとえば上長に有休申請を出すとき、有休の取得理由をこと細かく記載するように求められ「〇〇へ〇〇と旅行に行くため」「友人〇〇の結婚式への出席で〇〇に行くため」「親族である〇〇の法事で〇〇に行くため」(〇〇には実際の地名や人名などが入ります)とかなり具体的に書かないと受け取ってもらえないケースがあります。さらに有休届を提出する際には上長から嫌味を言われたり説教をされます。
また有休の取得理由があらかじめ会社から細かく指定されていて、それ以外の理由は原則認められないというケースもあります。ここまで異常でなくても、届を出した後に上長から「1泊で旅行? 誰と行くの? 彼氏(彼女)と一緒に?」といったセクハラまがいのことを聞かれるケースもあるようです。
さて、労働基準法では、有給休暇の取得を労働者の「権利」として認めています。「権利」なのでその権利行使について会社からとやかく言われる筋合いはまったくありません。
労働者が「〇月〇日は有休を取る」と休む日を指定し、理由欄に「私用」「私事都合」と書いた届書を会社(上長)に提出すればその時点で取得が確定します。
これ以外に必要な条件はありません。ましてや有休の取得理由を細かく記入する義務もありません。
一方、労働者が有休指定した日に、会社としてその人に休まれると業務の遂行に重大な支障が生じるような特段の事情がある場合には「時季変更権」といって別の日に休んでもらうことも可能ではありますが、会社が時季変更権を行使できる条件はかなり厳しく事実上不可能に近いです。
詳しく知りたい方は、このサイト内の「学習塾の休日・休暇の見極めかた」(2017年10月6日のブログ)をお読みください。要するに有給休暇は労働者固有の権利であり、会社からありがたく頂戴するものではないことをしっかりと理解しておく必要があります。
休暇とは仕事を休んで業務から離れる日です。業務から離れるということは完全に自分のプライベートな時間だということです。こう考えると、会社が有休届の取得理由を具体的に細かく記入させることは、個人のプライバシーへの侵害行為だと言えます。
でも労働法に詳しくない普通の労働者の立場では、ここまで認識していない人が多いのではないでしょうか。私も昔はこうしたことに無頓着でした。
もうずいぶん前の話ですが、私が家族と旅行に行くため有休申請した際、当時の上長から『取得理由を細かく書かないと届を受けとらないぞ!』と言われ、『家族と〇〇温泉に1泊旅行するため」と書いて提出しました。有休は取れましたが、その後当時の本部長から私に直接電話がかかってきてネチネチと嫌味を言われた経験があります。
したがって有休届の取得理由欄には本当の理由が何であれ「私用のため」「私事都合」と書いてあれば何も問題なく、わざわざ個人のプライバシーを会社に馬鹿正直に申告する必要はまったくありません。もし上長から個人のプライバシーに関することを聞かれても、言いたくなければ「プライベートなので言えません」と答えておけばいいのです。
したがって有給休暇の取得理由がコロナワクチンの接種だとしても、ワクチン接種はプライベートなことなので、会社に伝えたくなければ伝える必要はありません。これが当労組の正式見解であります。
こう言うと、えいすうユニオンの見解は7月3日の通達文(7)と矛盾するのでは? という反論が当然予想されます。次にこの点についてお話します。
7月3日の通達文(7)が作成された理由
当労働組合は当初、交渉でワクチンの職域接種や特別休暇の付与を社に要求してきました。ですが社の方針として職域接種や特別休暇の付与は行わず、ワクチン接種のために社員が仕事を休む場合は有給休暇で取り扱うということになりました。
社の方針が決まった後で、当労組が重要視したのは次の2点です。これは本社の労務担当も懸念していました。
1.ワクチン接種のために社員が有休を申請したとき、それがえいすう全部署、全事業所でスムーズに認められるようにするにはどうすればよいか。
2.接種後の副反応等により休業する場合も含め、ワクチン接種する社員に有休申請を不安や懸念なく上長や部署長に提出させるにはどうすればよいか。
えいすうでは現在、社員の有給休暇取得に関しては法律通りに履行されています。しかしながら有給休暇を取りにくい部署も一部には存在します。また個人が抱えている仕事量によっては、業務との関係上有給休暇が取りにくい人もいます。
そこで本社の労務担当と協議した結果・・・
ワクチン接種のために有休申請する際、理由欄に「コロナワクチン接種 第1回 / 第2回」と記載してあれば、上長や部署長も却下できない。また実際あり得ないが、会社が時季変更権を行使するときに休暇の目的がワクチン接種と記載されていれば、緊急性・必要性の程度を認めやすくなるので確実に有給休暇を取れるというメリットもある。
以上が取得理由欄に「コロナワクチン接種 第1回 / 第2回」と記載することが決まった理由になります。
しかしコロナワクチン接種は個人のプライバシーにかかわることなので、社員の中には有休届にそれを記載したくない人もいると思います。そうしたケースが出たときはどう対応するか。
これについて協議した結果が「何らかの事情でそれがはばかられる場合は、本社労務担当に個別にメールで知らせてください」という但し書きが入った理由になります。
ここでいう「何らかの事情でそれがはばかられる場合」とは、プライバシーの観点から、届出書にワクチン接種のためと記載したくないケースを意味します。
また「個別にメールで知らせてください」は、個別に相談下さいという意図です。この部分は社員が誤解しないよう、もっと具体的に書くべきだったと思います。
最後に(7)の冒頭にある「接種状況の把握のため」という文言ですが、これに深い意図はありません。社員のコロナワクチン接種に関し、本社に担当者を置くという意図から出てきた文言になります。社が全社員のワクチン接種の個人情報を集めるという意味ではありません。
当労組との交渉で、社は、社員各個人のコロナワクチン接種情報を集めること。それを利用して社員を不利益に取り扱うことは行わないと約束しています。もし社がそのようなことを行えば当労組が黙っていません。
7月6日の訂正通達について
7月3日の通達文配信後、社員からの意見や疑問が当労組にきました。そこで当労組は、社に対し、項目(7)の文言を訂正するよう交渉しました。そして7月6日に訂正通達が全社員に配信されましたが、少しまわりくどい表現だったため、かえって社員を混乱させてしまったようです。
以下が訂正通達の内容です。下線部に注意して下さい。
(7)ワクチン接種のために有給休暇申請を行う場合は、できるだけ届出書の取得理由欄に「ワクチン接種(第1回 / 第2回)のため」と記載してください。社員の個人的事情で記載したくない場合には、通常通りの「私事都合のため」「私用のため」という理由記載で構いません。本社労務担当への個別のメール報告も不要ということです。
これを7月3日に配信された最初の通達文(7)と比べると、「接種状況の把握のため」という文言が消え、理由欄に「ワクチン接種のため」と記入するかどうかは社員個々の判断に任せるという内容になっています。
またプライバシーの観点から届出書にワクチン接種のためと記入したくない人は、通常の申請通りに「私用」「私事都合」と記載してもよい。その場合でも本社労務担当への報告は不要となっています。
つまり、訂正された通達(7)では、社はえいすう社員のワクチン接種情報を集めることはできない内容に変更されています。さらにコロナワクチン接種のために有休申請する場合でも、通常通り「私用」「私事都合」と理由欄に記載してもよい、社への報告はしなくてよいことを認めています。
通達文中の細かい部分が変わっただけで、何の意味があるの?と疑問に思う社員の方が大多数だと思いますが、実はこういう些細なことが将来にわたって社員の権利や利益を守る際にはきわめて重要なことなのです。
当労組はこれまで団体交渉や労使協議で何度も社と「話し合い」をしていますが、この「話し合い」のイメージがわからない人も実は多いと思います。話し合いというと友人・知人間の話し合いをイメージする方が多いと思いますが、労働組合と会社との話し合いは、国どうしのシビアな「外交交渉」だと考えるとイメージが明確になります。
外交交渉では条約や各種宣言等が発表されますが、それらの外交文書の表現等をどうするか、どんな内容を盛り込むかといったことについてかなりの時間を割き、神経質なまでに交渉します。なぜなら「文書」が公的に発表されると、それが将来にわたって当事国(当事者)を拘束し影響を与え続けるからです。
したがって、一見どうでもいいような内容であっても細かいところまで交渉で詰めていくのが当然で、そうすることで自国の権益を守るため、自国の利益を最大化できるように交渉していくのが一般的です。こうして相手に付け入るスキを与えないような外交文書が作成されます。
通達文を外交文書だと思って、改めて通達(7)の改訂前と改定後の内容を見比べてみて下さい。当労組の意図することがわかってくるかもしれません。
えいすう社員の皆さんへ
今回の経緯は当労組と社の労務担当とが協議する中で、えいすう社員がコロナワクチン接種のために休業する場合、いかにしてスムーズに有休申請を提出させるか、レアケースが出た場合はどうするかに双方の交渉担当者の意識が集中してしまったことが原因です。
現在えいすうでは有給休暇の申請は取得理由が何であれ、多くの社員が「私用」「私事都合」と記入し普通に認められているはずです。こういう視点で7月3日の通達文を読むと、ワクチン接種に関する有休届の記載条件は明らかに普通とは違います。
会社が社員個人のワクチン接種状況を集め、何らかの目的で利用するのではと不安に感じた社員がいたとしても不思議ではありません。
当労組と本社労務担当も通達が出された後、社内から通達文の内容について先述したような意見が出るとは想定していなかったのが事実です。最初から『コロナワクチン接種のために有休届を出す場合、取得理由欄に「私用」「私事都合」と記載すること』とシンプルに考えておけばよかったと思っています。したがって・・
有休申請の際に、有休の取得理由がコロナワクチン接種に関する理由であっても、その他の理由であっても、届出書には「私用のため」「私事都合」と書いて提出して下さい。それで何の問題もありません。
また今回の通達文による混乱は、それが配信される前に当労組と社とで通達文書の内容や表現等を詰めていなかったことが原因です。そこで・・・
今後は、当労働組合が関係する案件について、社が全社員に通達等を配信する場合、その配信前に当労組と社の担当者との間でその内容や表現等を協議することになりました。
全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。
コロナワクチンを接種するため業務を休まねばならなくなり、有給休暇の申請を出したのに会社に拒否された場合、有給休暇は使用できないと言われた場合は、ぜひ私たちか近隣のユニオン(一般労働組合)まで相談して下さい。