学習塾では労使協定の適切な締結が必要

 

eisu社員、それから全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。

前回のブログでは学習塾ウィザスで発生している労使紛争について書きました。1年単位の変形労働時間制導入、団体交渉拒否、組合員への不当労働行為などの問題をめぐり、ウィザス労組大阪教育合同労働組合所属)は現在、会社と闘争しています。

ところで、会社が労働者に残業や休日労働を命じる場合や、職場に変形労働時間を導入する場合には、使用者(会社)と労働者代表(社員)とのあいだで三六(サブロク)協定や変形労働時間に関する労使協定を締結する必要があります。これらは職場の労働時間や残業等の労働条件の根幹を決める極めて重要な協定となります。

しかし学習塾においては、これらの労使協定が適切に締結されておらず、その手続きに問題のある会社も残念ながら存在します。ウィザス労組の話では、組合員のいる校舎の労使協定は再三会社に開示請求して、最近やっと開示されたそうですが、他の校舎の労使協定については会社はウィザス労組への開示を拒否しているそうです。

※ ウィザスでは校舎単位で労使協定を締結しており、教室責任者がその校舎の労働者代表になるそうです。

普通なら、締結された労使協定の控えは各校舎で保管され、社員なら容易に閲覧できるはずですが、なぜかそうなっていないようです。ウィザス労組もこうした会社の不透明さを追及しています。

労使協定の問題は、過去にeisuでも表面化し労使紛争になった事例があります。以下にeisuでの事例を含めてその問題点について書いていきます。

三六(サブロク)協定に関する問題

労働基準法第32条には、使用者(会社)が、労働者に休憩時間を除き1週間40時間を超えて、また1日8時間を超えて労働させてはならないという規定があります。これを法定労働時間といって、もし使用者(会社)が労働者を法定労働時間以上に働かせると、労働基準法違反となり罰せられます。

そこで使用者が労働者に法定労働時間を超えて労働させたり、休日に働かせる場合には、使用者と労働者代表とのあいだで時間外・休日労働にかかる労使協定(三六協定)を結び、労働基準監督署に届け出ることが必要です。

三六協定と言うのは、これが労働基準法第36条を根拠とするからです。だからサブロク協定と呼ばれます。この三六協定を締結していれば、使用者が労働者を法定労働時間以上に働かせても労働基準法違反で罰せられることはありません。一種の免罰規定といえます。

問題なのは六協定を適切に締結・届出せずに労働者を働かせている学習塾もあることです。時間外労働について就業規則に記載され、三六協定の内容も社員の誰もが、いつでも見ることができるように周知されることも必要ですが、そうなってない場合も実際多いです。

また三六協定を締結する労働者代表は、労働者の中から選挙などの公正な手段で選ばれることが条件ですが、実際には会社の役員や幹部が労働者代表になっていたりするなど、労働者代表には不適格な人が選ばれている場合もあります。

ひどい場合には、社員全員が、労働者代表が誰なのか、どのようにして労働者代表に選出されたのか、三六協定等の労使協定の存在すら知らないというケースもあります。

こうなると現場の労働者は、使用者(会社)の命令で、いくらでも働かされることになります。しかも残業手当などまったく出ません。過労死や精神疾患に追い込まれる労働者がいつ現れても不思議ではありません。

eisuも労働組合ができる前は、これと似たような状況でしたけどね・・

自分の働く職場で、三六協定などの各種労使協定が適切に締結されているかどうかを見抜く方法は実は簡単です。次の3つを確認すればいいだけです。

1.労働者代表を選ぶ選挙が毎年実施されている。選挙は無記名投票で行われる。

2.現在の労働者代表が誰なのか、社員全員が知っている。

3.会社が労働基準監督署に届出した労使協定は、社員が自由に閲覧できる。

上記1~3が一つでも当てはまらなかったら、自分の職場はブラックである可能性はかなり高いと思います。

注意点ですが、三六協定の締結はあくまで労働基準法第32条の免罰規定であり、残業代の免除にはならない(法定労働時間を越えて働いたら、残業代は支払われるのが当然)ということを覚えておいて下さい。

 年変形労働時間協定に関する問題

学習塾では社員の労働時間について「1年単位の変形労働時間制」を採用している会社が多いです。eisu採用しています。年変形労働時間制は次のようなシステムになります。

最初に1年間の総労働時間を決め、それを平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内において・・

1.特定の週に40時間を超えて労働させることができる。

2.特定の日に8時間を超えて労働させることができる。

3.上記により法定労働時間を超過した場合でも時間外賃金を支払う必要はない

学習塾は普段午後1時~2頃出勤して10時~11時頃退勤となる会社が多いので、週休2日制なら休憩時間を除く週あたりの実質労働時間は36~38時間程度になります。ところが夏期・冬期・春期の講習期間中の繁忙期はそれこそ朝8時~夜10時まで連続して勤務することもあります。

このように1年単位の変形労働時間制は年に何回か繁忙期のある業界・会社にとっては残業代を抑制することができるとても都合の良い制度なのです。

つまり繁忙期には法定労働時間より長く働いてもらい、それ以外の時期には法定労働時間よりも短く働いてもらう。1年間で平均して週当たり40時間以内に収まっていれば法律上問題はない。残業代も支払わなくてもよい。という制度になります。

したがって、この制度を導入する会社の目的はただ一つ。労働者を働かせても残業代を払いたくないためで間違いありません。

この制度は、労働者の無知につけ込んだ使用者(会社)の悪用を防ぐため、その導入・運営にあたってはいろいろと細かな手続きや制約があります。1年単位の変形労働時間制を採用するには、以下の4つが必要になります。

1.会社の就業規則に記載する。

2.対象となる労働者の範囲、起算日、対象期間を決める。

3.対象期間内の労働日および各労働日ごとの労働時間等について、会社と労働者代表が労使協定を締結する。

4.締結した労使協定を所轄の労働基準監督署へ届出する。

問題なのは、この変形労働時間制の手続きや運用が不適切な学習塾もあることです。不適切な事例の多くは変形労働時間に関する労使協定にあります。

三六(サブロク)協定のところで書いたことと一部ダブりますが、労働者代表の選挙もしていない。誰が労働者代表なのか誰も知らない。

年変形労働時間の対象となる労働者、起算日、対象期間、年間総労働時間がまったくわからない。特定期間の有無や、特定期間中の連続勤務日数の上限もわからない。労働基準監督署に届け出た年変形労働時間の労使協定を社員が自由に閲覧できない。

もしこのようになっていたら、会社は年変形労働時間を適切に締結・運用しているとは到底言えません。会社は労働時間や残業に関わる重要な内容を社員に隠蔽していることになります。したがって後日大きな問題が起こり、労使紛争になる可能性はかなり高いと思います。

注意点ですが、変形労働時間制でも一定の条件を満たせば時間外労働が発生するので、残業代を支払う必要があることを覚えておいて下さい。なお、年変形労働時間制度の詳しい説明は次回します。

 eisuでの事例(2012年の紛争)

以前、えいすうでも三六協定や年変形労働時間の労使協定は、誰が労働者代表として締結しているのか、その内容はどのようになっているのか、社員の誰も知らない。という時代が長く続いていました。もちろん毎年の労働者代表選挙も行なわれていませんでした。

これが抜本的に改善されるきっかけになったのは、2012年5月、会社が社員の年間公休日数を突然10日以上も減らす通達を出したことです。当時eisuでは1年単位の変形労働時間制が運用されていました。

実は1年単位の変形労働時間制は年度当初に運用が開始されると、年度途中での変更・改変は原則できないのです

年度途中で社員の公休日を減らすということは、すなわち年度途中で年変形労働時間を変更したことになるが、特に大きな理由もないのにこんなことがはたして可能なのか?

こう考えた当労組はすぐに会社に団体交渉を申し入れ、団体交渉の席上で、会社が保有する三六協定と1年単位の変形労働時間の労使協定(労基署への届出済印があるもの)の開示を要求しました。

その結果わかったことは・・

会社は三六協定(残業協定)を作成していない。労基署にも届出していない!?

・年変形労働時間に関する労使協定も作成していない。労基署にも届出していない!?

というとんでもない事実が発覚しました ! 

会社の説明では、数年前までは作成、提出していたのだそうですが、前任者(役員)が退任した時に後任者(幹部社員)への引継ぎがきちんとされておらず、後任者は毎年そうした手続きがあることをまったく知らなかったそうです。

つまり数年間、eisu社員は「違法労働・違法残業状態」に置かれていたことになります。

当労組はすぐに「違法状態」の改善と、法定労働時間を越える部分について、過去にさかのぼって全社員への支払いを要求しました。しかしその直後から会社(経営者)による社内の組合員への弾圧が始まりました。

前回のブログにも書きましたが、労働組合からの正当な要求に対し、会社が弾圧を加えれば当然、労働組合も反撃に出ます。労使双方の対立がヒートアップすれば労使紛争は「社外」に拡大します。

労働基準監督署に是正申告すると同時に、労働委員会へのあっせん申請、街頭での街宣や抗議行動、社内ブログやユニオンみえの公式サイトを用いた情報発信などを行なった結果、翌年和解協定が締結され、当労組に有利な内容で和解しました。

この闘争の結果、当労組への加入者や協力者を増やすことができました。また、これがきっかけとなり週休2日制の実施(それ以前は週休1日)・過酷な連続勤務の禁止・有休取得制度の是正・社員の労働時間の適正な管理など、職場の労働環境の改善が一気に進みました。

このサイトの「改善・解決事例」のページで、2012~14年度に改善された事例はこの時の闘争の成果とも言えます。

誤解のないように言っておきますが、現在、当労組と会社との間には大きな対立・紛争はありません。将来の労使関係はどうなるかわかりませんが、少なくとも現時点においては当労組と会社との関係は比較的安定していると思います。

eisuの事例からの教訓ですが、会社と労働者が三六協定や年変形労働時間の労使協定を締結する理由は何なのか? 

それは労働者が「会社の働かせ方」をチェックし、会社が労働者に「違法な働かせ方」を強要していないかどうかを監視するためなのです。

したがって、労使協定を適切に締結すること。労働者が労使協定の内容を閲覧できること。最低限この2点が確保されなければ、会社の命令でいくらでも都合のいいように働かされることになります。

何十日にもおよぶ連続勤務やサービス残業の強要、過労死や精神疾患から自分の身を守るためにも、労使協定の適切な締結とその内容の開示は最低限必要なのです。

現在のeisuでの状況

2012年の闘争がきっかけとなり、今ではeisuでは労働者代表選挙や各種労使協定の締結は適切に行なわれています。

eisuの新年度は3月(高校部は4月)ですが、毎年2月中に社内5部門(三重小中部・三重高校部・愛知静岡地区・首都圏・えいすう総研)に分かれて労働者代表選挙が実施されます。

親睦会の推薦により各部門から労働者代表が立候補し無記名投票で選出されます。今年はコロナ禍により選挙自体なくなりましたが、当労組が社と協議し、立候補者を労働者代表として認めました。

厳密に言えば、親睦会が推薦した立候補者は労働者代表として適正だと言えるのか?という議論もありますが、自ら進んで労働者代表に立候補したいという人が各部門で現れない限り、2月中には手続きを終わらせる必要上、当労組も黙認している背景があります。

なお5部門中、えいすう総研だけは当労組の公然化組合員が労働者代表になっています。

締結・届出された各種労使協定は、社内のイントラネットにアップされ、社員なら誰でも自由に閲覧することができます。自分が働く部門以外の労使協定も閲覧できます。

少し前までは、eisuも労働者代表選挙がない。労働者代表が誰なのかわからない。労使協定を閲覧できない・・という状況でした。でも当労組が会社と闘争した結果、昔よりもずいぶん良くなったと思っています。

そういう意味では、eisuに労働組合をつくってよかったです。

次回は1年単位の変形労働時間制ではどのように労働時間や公休日を決めるのか。労働者が注意すべき点について説明します。

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