学習塾での年変形労働時間の注意点(第1回)

全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。
学習塾で従業員の労働時間制度として採用されることが多い1年単位の変形労働時間(年変形労働時間)について説明します。塾人の皆さんが注意すべき点も解説していきます。
年変形労働時間の設定
1年単位の変形労働時間を設定するには、最初に1年間の総労働時間を決めます。この年間総労働時間には上限があり、最大で2085時間となります。
この理由は、1週間の労働時間を法定労働時間である40時間に設定すると・・
40時間 × 365日 ÷ 7= 2085時間 となるからです。
したがって会社は、1年単位の変形労働時間制を採用・導入する場合、1年間の総労働時間が2085時間の範囲内に収まるように、労働日数と労働時間を割り振り、労働日と公休日を設定することになります。
すると1日の所定労働時間が8時間の会社では、年間の労働日数は260日・年間休日数は105日 と自動的に決まることになります。
つまり年間総労働時間2085時間を8時間ずつ割り振ると・・
2085 ÷ 8 = 260.6 になるので、年間労働日数は260日となります。
同時に 365-260 = 105 となるので、年間休日数も105日になります。
これで1年間の労働日数が自動的に決まるので、後は会社が260日分の労働日を決め、年間カレンダーを作成することになります。eisuもそうですが、大手学習塾の中で従業員の年間休日数を105日前後に設定している会社が多いのはこれが理由です。
見方を変えればマイナビやリクナビなどの求人サイトで、社員の年間休日数を105日前後と記載している学習塾は、1年単位の変形労働時間制を採用していると考えられます。法律で規定された年間総労働時間の上限いっぱいまで働かせるのは姑息さを感じますが・・
ただし求人サイトの労働条件が本当かどうかは実際に入社しないとわからないです。学習塾のほとんどは労働組合のない会社なので、求人サイトに105日とあっても実際の公休日数はそれよりずっと少ないケースも当然あります。
前回のブログにも書いたように、会社が社員に知らせず勝手に労使協定を作成して労基署に届出る、社員に労使協定の内容を開示していないなら、年変形労働時間を会社が恣意的に運用することはいくらでも可能だからです。
年変形労働時間制の上限規定
ところで、学習塾では繁忙期である講習期間以外は、1日あたり実働7.5時間程度、週あたりでは37~38時間程度(週休2日の場合)の労働時間を設定している会社が多いです。
そこで繁忙期以外の1日あたりの労働時間を短くすれば、社員の年間総労働日数を増やせるし、休日数も減らすことができると考える人が現れても不思議ではありませんよね。いかにもブラック学習塾のブラック経営者が考えそうなことです。
上記の例で、仮に1日の労働時間を7時間にすると、年間総労働時間2085時間を増やさずに、年間労働日数298日。年間休日数67日とすることができます。ヤバイことですが、実はそうなりません。
なぜかと言うと、年変形労働時間制では1年間の労働日数の上限が280日と決められているからです。
実は労働基準法により、年変形労働時間制の労働日数・労働時間・連続勤務日数については上限があります。法律もブラック経営者が考え付きそうなことには先手を打っています。
1年単位の変形労働時間制では、対象期間の労働日数、1週間・1日の労働時間数、連続勤務させることのできる日数は、それぞれ次のとおり限度が決められています。塾人の皆さんは、これらをしっかりと覚えておいて下さい。
上限の項目 | 限度となる日数・時間数 |
労働日数(1年あたり) | 280日 |
労働時間(1日あたり) | 10時間 |
労働時間(1週間あたり) | 52時間 |
連続勤務が可能となる日数(原則) | 連続6日 |
連続勤務が可能となる日数(特定期間) | 連続12日 |
会社は、これらの限度を超えない範囲内で、対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を決めなければいけません。
この表で注意すべき点は、年変形労働時間制の下では、対象期間のうち特に繁忙な時期には特定期間を定めることができることです。
特定期間中は連続して労働させる日数の制限が緩和されるので、年変形労働時間の労使協定で特定期間を定めれば、その期間中は最大12日間連続勤務させることができます。
特定期間とは、例えば、1日9時間や、1週間48時間を超える労働時間を設定している期間や、連続勤務日が6日を超える期間などをいい、特定期間の長さについては特に規定はありませんが、1年の大半を特定期間として定めることは法の趣旨に反するのでできません。原則として1回につき3週間以内。年間でも最大6回までとなっています。
特定期間とは、繁忙期のため連続労働させられる日数を最大12日まで延長できるのが趣旨なので、当然特定期間中でも1日10時間、1週52時間の上限規定が適用されます。
労働基準法第35条に「労働者に毎週少なくとも1回の休日を与えねばならない」という規定がありますが、実は12連勤は労働基準法違反にはなりません。簡単に言えば言葉のロジックですね。条文の「毎週」という部分がポイントになります。詳細は『連続勤務は何日までか?』(2019年2月22日のブログ)をご覧下さい。
学習塾では年間休日数が85日の会社もありますが、これはすなわち年間労働日数が280日あることになります。こうした会社では年変形労働時間制において、繁忙期以外の1日あたりの労働時間を短くして、年間労働日数を上限まで増やして(一方で社員の休日数を減らして)いると思います。労働条件の良い会社ではないですね。
次回は1年単位の変形労働時間制の下では、どのような場合に時間外労働となるのかを説明します。