学習塾での業務委託契約強要問題(後編)

業務委託を強要されて困っている塾人へ

ここ数年、他塾で勤務している塾人から、勤務先の学習塾から業務委託契約を結び、個人事業主として働くことを強要されて困っているという相談が当労組に入るようになりました。今年に入ってからは正社員の人からの相談も増えています。

これはコロナ禍や少子化による生徒数減少などで、ここ数年利益を大幅に減らしている学習塾が増えており、収益を確保するために従業員にかかる経費をリストラすることが目的です。

当労組は前回のブログで、業務委託契約を結んでしまうと「個人事業主」となり、著しく不利な状況で働くことになり、会社に言われるまま安易に業務委託契約を結んではいけない理由を具体的なデメリットを挙げて警鐘を鳴らしました。

今回は、会社が業務委託契約を強要してきた場合の対処法について書いていきます。

ただしこれは、あくまで会社と業務委託契約を結ぶ前の段階、つまり「使用者(会社や経営者)に直接雇用される労働者」の立場にあるときの内容になります。

なお、これらの対処法は会社との何らかのトラブルは避けられないことも理解して下さい。業務委託契約を強要された場合、会社とのトラブルを避けたいのであれば契約書にサインするしかありません。

労働者への業務委託契約強要は違法

そもそも会社が、従業員(正社員、契約社員、アルバイト等の非常勤社員)に対して「お前は会社と業務委託契約を結んで個人事業主になれ!今後はフリーランスの立場でうちの会社で働け!」と命令を出して有無を言わさず従わせることは法律上可能なのでしょうか?

もちろんこれは民法、労働契約法、労働基準法に照らせば違法です。会社は法律上こうした契約を従業員に強要することはできません。なので会社も表向きはあくまで「提案」の形を取ります。この点をよく覚えておいて下さい。

大前提として、従業員つまり雇用される労働者が業務委託契約を結んで個人事業主に転換する場合、それまでの労働者としての働き方とは仕事の進め方や待遇・保障等が大幅に変化します。

したがって会社にはメリット・デメリットについて細かく説明する義務があるし、最終的には労使双方が納得して文書で合意する必要もあります。

しかしブラック学習塾の場合、個人事業主に転換した場合どうなるのかの説明をほとんど行わず、業務委託契約の内容についても話し合うどころか一方的に「業務委託契約書」を送り付け、これにいついつまでにサインしろと言ってきます。

そして「これにサインしなければクビだ」「サインしなければ賃金の大幅カットも止むを得ない」「校舎の売上が落ちているのに責任を感じないのか?」などと言ってサインを強要してきます。

信じられないかもしれませんが、これらはすべて当労組への相談者から聞いた話です。

それでは、もし会社から業務委託契約を強要され、会社の対応に不安や恐怖を感じた場合はどうすればよいのか?

対処法は簡単です。会社からの業務委託契約の提案を断ればよいだけです。この段階では、会社はあくまで「業務委託契約を結ばないか」と提案しているだけです。

また会社が不利な内容の労働契約を従業員への説明も曖昧なまま、契約内容についての話し合いも行なわずに強要することは違法です。会社からの業務委託契約締結の提案には労働者側にも断る権利があることをよく覚えておいて下さい。

それでも会社がしつこく契約の締結を強要してきたら「これは会社からの提案ですか?それとも強要ですか? 」と問い質します。

その上で「すでにお断りした件について、あまりしつこく要求すると強要罪になりますよ!これ以上言うならこちらも出るとこ出ますよ!」と言ってやりましょう。

これでもまだ会社が解雇や賃金の大幅カット等をちらつかせて脅してきたら、そのときは労働基準監督署、労働局、地域のユニオン(一般労働組合)に相談して下さい。

この段階なら立場は「雇用される労働者」なので、監督署なども対応してくれるはずです。また「労働者」ならユニオンでも普通に対処・解決できます。

これらと同時に、業務委託契約を労働者に提案(強要?)する就業規則上の根拠の提示や、他の社員との整合性(対象は自分だけなのか? 他の社員はどうなのか?)なども会社から聞き出しましょう。

ブラック学習塾は就業規則はないに等しい場合が多く、あっても社員には周知されていないことも多いです。就業規則上の根拠がない場合には、会社の命令に従う義務はありません。

会社からの業務委託契約を断る理由として、これらの理由があれば正当化できます。できるだけ客観的な証拠(メール文や録音記録、メモなど)を残しておくことが大切です。

自分にとって有利な内容(会社には不利な内容)の客観的事実を集めておくことです。

自分に有利な内容で契約を締結するのがベスト

もし、会社が業務委託契約の締結を強要してきたら、労働者側もその契約内容(つまり労働条件や報酬等)について会社に要求することができます。なぜなら業務委託契約は会社と個人事業主が双方協議した上で「対等な立場」で締結することが求められているからです。

このブログを読んでいる皆さんは、会社と業務委託契約を締結し個人事業主なぞには絶対なりたくないという人が大部分だと思いますが、業務委託契約にサインする前に、前述した「会社の提案する業務委託契約を断る理由」を補完・強化するためにも労働条件の交渉は必要です。

一番やってはいけないことは、会社と業務委託契約の内容についてまったく話し合いをせず、会社が提示した条件をそのまま受け入れてしまうことです。

特に正社員として長年そこで働いてきた人なら、自分の労働条件や報酬等を会社と交渉して決めることは思いもよらないことかもしれません。

しかしフリーランスで仕事をする場合、相手と交渉して労働条件や報酬を決めることも自分の責任でしっかり行う必要があります。曖昧な点を残しておくと絶対に後悔します。大卒後10年以上フリーランスで働いてきた私の経験からも言えます。

業務委託契約を結び個人事業主(フリーランス)に転換すると、さまざまなリスクやデメリットがあります。詳細は前回のブログで説明したので割愛しますが、業務委託で働く場合には、こうしたリスクをできるだけ軽減し、かつ自分に不利益のない契約内容となるよう交渉すべきです。

下にその具体例を挙げます。学習塾に勤務し正社員から業務委託に転換した場合に、会社と交渉して決める最低限の契約条件を想定しています。業務委託契約を強要されている塾人の方は、この条件をモデルに会社と交渉して下さい。

1.正社員時代の年収を基準に、その3割増し以上の報酬とする。社会保険料の自己負担なども踏まえた上で報酬を決める。たとえば年収300万円(手当・賞与込み)なら年間390万円以上の報酬となるようにする。最低限、正社員時代の収入水準以上を維持する報酬設定にする。

2.契約期間を長期(1年以上)に設定し、その期間中は会社の都合で一方的な労働条件の変更や報酬の減額等をしないことを契約に含める。

3.勤務する校舎の生徒数や売上がアップした場合は、それに応じて報酬にインセンティブを追加することを契約に含める。

4.勤務時間を夕方16時以降とする。社内会議などに参加する場合や、門配や保護者会などの業務を勤務時間外に実施する場合、別途報酬に加算する。

5.契約期間中は他の学習塾での勤務禁止といった、将来的に不利に働く契約条件は削除するか、禁止期間を短縮するよう交渉する。

上のモデルを念頭に置いて会社と交渉すれば、会社は業務委託契約を撤回してくるかもしれません。なぜなら会社の目的は「人件費のリストラ」だからです。

人件費を下げるどころか、かえって支払う報酬が増え、会社による労務管理が不安定になってしまいます。

実は、雇用する労働者を業務委託に切り替えた場合、会社にとってのデメリットも多いです。アホなブラック学習塾の経営者はこの点についてはまったく考慮してないですが・・

会社から業務委託契約を強要されて困っている塾人の方は「このような条件で契約を結ぶならサインしても良いですが、この条件で話し合いをしても一致点が見いだせないので今回の会社の提案はお断りします」と答えておけばよいです。

こうすれば、会社の提案(強要?)を断った理由が「業務委託契約での報酬・労働条件を双方で話し合ったが合意に至らなかった」となるので、断った理由を正当化できます。

会社から業務委託を強要されている塾人へ

上の対処法がうまくいっても、これらは実際「時間稼ぎ」でしかありません。こうしたブラック学習塾は、会社からの業務委託契約を社員が拒否した場合、あらゆる手段を使って嫌がらせをしてきます。したがって早めにその対策を講じる必要があります。

最も効果的なのがユニオン(一般労働組合)に加入し会社と団体交渉し、会社からの攻撃を避けつつ組合員を増やしてその学習塾に職場分会を結成することだと思いますが、そこまではしたくないという人もいるでしょう。

そういう人は時間稼ぎをしている間に、できるだけ早急に次の転職先を探しその職場から逃げるべきです。生徒に迷惑がかかるということを考慮する必要はありません。

今まで真面目に生徒のために働いてきた社員に対し、その社員の立場や生活をまったく考えずに理不尽な要求をしてくる会社(学習塾)に恩を感じる必要性はまったくないです。

しかし首尾よくそこを辞めることができても、その会社自体の体質は変わらないので、また別の人が入社して同じ目にあうだけです。負の連鎖は連綿と続いていきます。

私は「会社から理不尽な仕打ちを受けて辛い立場にあるのに、会社とは揉めたくない」と考える人が多いのが不思議でなりません。

「会社と揉めたくないので会社に嫌々従う」前に、不本意に会社に従った結果、自分の精神状態や将来の生活、キャリアに及ぼす影響を考え直す必要があると思います。

「会社の無茶で理不尽な要求に対して、労働者が労働組合を結成し抵抗すること」は悪いことではありません。

eisuでもワオ・コーポレーションでも、ウィザスでも、そこで働く少数の労働者が労組を作り会社に抵抗したからこそ、それぞれの学習塾職場の労働条件や労働環境を改善してきました。

ブラック業界と揶揄される学習塾業界ですが、そこで働く私たちにとって「会社と揉めたくないのでどんなに理不尽な命令でも従う」という考えから「理不尽な命令には断固抵抗し、会社と闘争して職場を改善する」という考え方に転換すべきだと思います。

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