学習塾への入社希望者が減少している背景(後編)

eisu社員、全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。

前回の続きです。近年、学習塾への就職を希望する新卒者が減っています。新卒を募集しても集まらず、退職者の補充ができず現場の業務に支障が出ているという話もよく聞きます。

前編では、学習塾に人材が入ってこなくなった背景について、外的要因として現代日本の少子化および貧困世帯の増加を取り上げて説明しました。

後編も引き続き外的要因について説明します。学習塾に人材が入ってこない要因というと、真っ先に学習塾職場の労働環境の問題が思い浮かぶ人が多いと思いますが、今回もあえて触れません。

外的要因その3 教員志望者の減少

学習塾に入社する人が減った背景の一つには「学校教員を志望する人が減った」ことです。公立校教員の平均採用倍率も2000年度は17.9倍(中学校)、12.5倍(小学校)ありましたが、2021年度には4.7倍(中学校)、2.5倍(小学校)と、かつての3分の1から5分の1程度となっています。

御多聞にもれず、学校教員の労働環境も学習塾同様「ブラック」だと認知されており、教職課程を取っても教員にはならず、別の職業に就く人も増えています。

先日、文科省から発表された公立校教員の労働実態調査によると、月80時間の過労死ラインを越えて働く教員の割合は、中学校で36.6%、小学校では14.2%と高い数値になっており、長時間労働が問題となっています。

学校教員と学習塾とは一見すると無関係のように思うかもしれませんが、実は深い関係があります。なぜなら昔から学習塾は「教員志望者の受け皿」として機能してきた側面があるからです。

教員志望の学生は、大学4年次に教員採用試験を受けますが、その多くは同時に学習塾にも就職活動をして内定を取ります。これは、教員採用試験が不合格だった場合、大学卒業後に雇用や収入が不安定になるのを避けるための「保険」の意味があるからです。

教員採用試験に合格して本採用となれば、学習塾の内定を辞退して教員になりますが、不合格の場合は、いったん学習塾に入社し、学習塾で働きながら教員採用試験の勉強を続け、合格したら学習塾を退職するというものです。

数学や英語などの専門教科を教えることは学校教員も塾講師もさほど変わらないし、教科の指導技術や生徒対応の経験が積めます。また保護者懇談などもあるので保護者への対応力も身につきます。

これはどこの学習塾でも普通のことで、eisuでも何年か働きながら経験を積み、教員採用試験に合格し、公立中学や公立高校の正規教員になって退職していった人は何人もいます。

したがって学習塾の新卒内定者の中には、もともと学校教員志望だが採用試験に不合格になり、再チャレンジ期間の仕事先として学習塾に入社してくる人が一定数いるのは事実です。

学習塾が学校教員の受け皿として機能してきたことを考えると「教員志望者が減る」⇒「採用試験の倍率が低下」⇒「不合格者が減る」⇒「受け皿である学習塾への入社が減る」という図式が成り立ちます。

つまり学校教員への志望者が減れば、教員採用試験の受け皿として機能してきた学習塾への入社志望者が減るのは当然だと考えられます。

外的要因その4 女性にとって子育てと仕事の両立が困難

毎年今の時期には当労組に、ときどき学習塾への就職を検討している就活生からのアクセスがあります。その中でも特に女性の就活生から聞かれるのは「妊娠・出産後も正社員として働き続けられるのか?」という質問です。

今年の新卒学生を対象にしたライフ・キャリアプラン調査(キャリタスリサーチ調べ)では、新卒女性で結婚後も共働きを希望する人は76.7%で、専業主婦を希望する人は7%しかいません。

まったく増えない賃金、物価高や子供の教育費の高騰、税負担増、年金給付額など今後の社会不安を背景に、夫の収入だけに依存するのはリスクが高いと考え、出産後も子育てしながら共働きしダブルインカムを目指す女性が今や普通になっています。

ところで、今から30年程前の平成初期には、eisuは大卒女性が入社したい企業の三重県第1位にランクされたこともありました。この頃は大卒で入社して3~5年勤務し寿退社するか、結婚後妊娠すると退職する女性社員が圧倒的多数でした。

総合職で採用されても出産後も子育てしながら働き続ける女性はいなかったです。

しかし令和の現代においては、出産後も子育てと仕事を両立させたい。子育てしながらキャリアアップを図りたいと希望する女性が大多数です。

したがって就職先の条件として、妊娠・出産後も同じ職場で働き続けられるか、育児休業制度や育児のための時短勤務制度があるのか。そうした制度をきちんと取得できるのか。ということに強い関心を持つのは当然です。

大手学習塾の多くは、就業規則に育児休業制度や育児のための時短勤務制度が記載されており、eisuにもあります。(eisu社員で制度の存在を知らない人は就業規則をお読み下さい)

問題は、会社が育児休業等の取得を積極的に進めているか。今まで出産した女性社員の多くが育児と仕事を両立できているかという実績がほとんどないことです。就業規則に書いてあるだけで、誰も内容を知らない。誰も取得したことがないというのでは、制度が「存在する」だけで、取得実績を含めてしっかり運用されているとは到底言えません。

少し話がそれますが、子育てが一段落すると、今度は「親の介護」に直面する場合があります。大手学習塾の多くは就業規則に介護休業についても記載があります。eisuにもあります。(eisu社員で制度の存在を知らない人は就業規則をお読み下さい)

他塾で働く塾人の話を聞いても、育児や介護休業、時短勤務は、就業規則に記載があるだけで制度の詳細を誰も知らない。過去に取得した人もいないというケースが多く、中には制度すらない会社もあります。

近年、女性の就業意識が大きく変化し、出産後も育児と仕事の両立を希望しフルタイムで働きたい人が増えた結果、育児休業や時短勤務等がしっかり整備されており、取得しやすい会社・業界が選ばれるのは容易に想像できます。

こう考えると、古い体質を残す学習塾業界が就職先として敬遠されるのは当然ではないでしょうか。

つまり現在の就活生の会社選びの条件やニーズに学習塾業界が対応しきれていないことが、学習塾への入社志望者が減っている理由の1つだと考えます。

『塾講師30歳定年説』との関係

そもそも昔から、学習塾業界は大手も含め、女性を積極的に採用してきました。男女比も女性が多い職場もあります。しかし育児休業制度を例にしても、必ずしも女性にとって働きやすい職場環境が整備されているとは言えません。

昔から女性を積極的に採用し、職場内の女性の数も多いなら、女性が働きやすい職場環境を整備できたはずなのに、そうならなかったのには理由があります。これについては、実は、昔から業界内でたびたび囁かれてきた『学習塾講師30歳定年説』とも関連があります。

断っておきますが「学習塾の講師は30歳を超えると全員が退職強要されて退職させられる」ということではありません。30代、40代や50代でも講師として働いている人は大勢います。

この言葉は「学習塾業界での賃金は30歳以降には頭打ちになる」ことを端的に表すものです。もちろん勤務する会社の規模や利益率等の個々の要件もあるので一概に全部そうだとは言えませんが、一つの傾向として指摘できます。

これは現代の若者の就業意識の変化も大きく影響しています。次回は昔から業界内でよく聞く『学習塾講師30歳定年説』とも関連付けて、学習塾に人材が集まらなくなった背景について説明したいと思います。

 

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