労働者がブラック企業と闘う決断をする理由

全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。久しぶりのブログ更新になります。

昨年12月に、スクールTOMASで起こったアルバイト講師の解雇闘争の事例をこのサイトで紹介しましたが、先日、当事者のM氏から報告があり、会社がM氏と彼が所属するユニオン(一般労働組合)に和解金を支払ったことで解決したようです。

和解により、M氏の公式YouTubeチャンネルは現在閉鎖されてます。和解内容は公開できませんが、和解金額はアルバイト講師の解雇事例としてはかなり高額で、労働者とユニオンが大手塾に勝利したことは、同じ塾業界で活動する労組として誇りに思います。

同時に多くのユニオン(一般労働組合)にとって、この解雇闘争は闘争戦術や戦略の面で、研究・参考にする価値の極めて高い事例だと思います当労組も早期からこの闘争に注目していました。

ところで、M氏の解雇闘争の記事を見たeisu社員や他塾で働く人、ユニオン関係者などから「アルバイトなのにユニオンに加入し抗議行動や裁判を行い大手塾と徹底闘争するM氏はどういう人か?」とよく聞かれました。

それに対し「M氏は定年後に独学で英語を勉強して塾講師として働いている爺さん」と答えると皆一様に驚いていました。

爺さんなら年金もあるし、子育てなども終わっています。つまり解雇されても即生活に困るわけではないし、アルバイトなら別の職場に移ればよいだけで、ユニオンに加入し大手塾と徹底して闘うメリットはほとんどないです。ではM氏が会社と闘うことを決めたきっかけは何なのか?

労働者が会社と闘うきっかけは労働環境ではない!?

当労組のサイトには、全国の学習塾で働くさまざまな人からの相談があります。しかし、どんなに過酷でブラックな職場環境に苦悩していても、ユニオン(一般労働組合)に加入してまで会社と闘うことを決断し実行に移す人はほとんどいません。

なぜなら労働者が会社と闘うことは負担が大きいからです。実際、会社と闘って職場を改善していくにはリスク(賃金引下げや不当配転など)もあるし、労働組合法や労働基準法の知識も必要だし、ユニオンの人が自分の職場に四六時中張り付いて組合員を守ってくれるわけでもありません。

また日本社会は同調圧力が強く、周囲から目立ったり、周りの人と違う行動をとるのはとても勇気がいります。したがって大多数の人が、労働環境の良い会社に転職するか、職場のブラックな環境を我慢し受容することを選ぶのも理解できます。

会社と闘うことはリスクが高く、知識や行動力、胆力や主体性、対応力や先を読む力も必要です。今まで普通に働いてきた人ならやはり躊躇すると思います。しかし一方、ユニオンに加入し会社と闘うことを選ぶ人も少数ですがいます。でも会社と闘うことを選んだ人は特殊な人ではありません。

eisuユニオンも、ウィザスユニオンやワオ・コーポレーション分会の組合員も皆いたって普通の人です。それまで会社に逆らったり文句を言ったこともない人たちばかりです。では、どうして「どこにでもいる普通の労働者」がユニオンに加入し会社と闘う「闘士」に変貌するのでしょうか?

意外に思うかもしれませんが、「普通の労働者」がリスクを顧みず、ブラック企業との闘いを決断する「直接のきっかけ」は、職場の過酷な労働環境そのものではないのです。

この事はどんなに職場がブラックだとしても、それに抵抗し会社に反逆する人は極めて少数で、逃げる(転職する)人や、諦めて順応しようとする人が大部分である現状からもわかります。

労働者が会社との闘いを決断するとき

どこにでもいる普通の労働者が、最終的に会社と闘うことを決断する直接のきっかけが職場のブラックな労働環境でないなら本当のきっかけは何でしょうか?あえて言うなら「自分のプライドが傷つけられたことに対する強い怒り」でしょうか。

ただし、人の性格や気質、こだわり等はそれこそ十人十色・千差万別なので、その人の「怒りのツボ」がどこにあるかは第三者(他人)からは見えないです。だからユニオンの組合員に、会社と闘うことを決断したきっかけを聞くと「えっ、そんなことで!」とこちらが驚くような、本当に些細な事も多いのです。

たとえばスクールTOMASと闘争したM氏のケースで考えると、自分が執筆した絵本を1冊善意で本部に送ったことが解雇理由とされ、絵本は即時破棄されたそうですが、「自分の書いた作品」が一方的に会社に処分されたことは、作者であるM氏の立場で考えると、自分の可愛い子供が会社に殺されたことにも等しいと思います。会社の仕打ちに激しい怒りを覚えるのは当然でしょう。

つまり彼が会社と激しく闘争した本当の理由は解雇されたことではなく、自分の作品が会社によって冒涜されたことへの強い怒りだと思います。こう考えると彼がなぜあそこまで大手塾と徹底して闘ったのか理解できます。

私の例を言うと、eisu本社に呼ばれて退職強要された時、私はeisuを辞めようと本気で考えていました。しかし年度初めの全社員会議での「あること」がきっかけで、会社と闘うことを決断しました。

その「あること」とは、会議で配布された資料に私の勤務校舎の記載がなかったことです。他人からしたら実に「どーでもいいこと」でしたね。

ただこれが私の「怒りのツボ」を押したのは事実で、会社への強い怒りに変わり、会社と闘うことを決意しました。そしてユニオンみえに加入しeisuユニオン(労働組合)を結成して職場の改善を進めてきました。

また、職場の人間関係が直接のきっかけとなるケースも多いです。これは経営者や幹部社員、直属の上長からのパワハラ等がきっかけとなるケースもありますが、意外なことに上長と部下の性格や考え方の違いからくる対立がエスカレートした結果、ユニオンに加入し会社との闘争を決断するケースのほうが多いのです。

つまりブラック企業が、労働者の「怒りのツボ」を一度押してしまうと、それが会社組織だけではなく、そこの経営者や幹部への怒りや憎悪、恨みに変換されることもあるのです。こうなると労働者にとって、会社と闘うことはもはやリスクや同調圧力とは無関係になり、相手を潰すまで徹底的に闘争することも辞さなくなります。

誤解を恐れずに言えば、会社に対する労働者の怒り、憎しみ、恨みといった負の感情も、ブラック企業の過酷な労働環境を抜本的に変えるためには必要であり、時に大きな力を発揮するのです。

私はeisuだけでなく他塾や他社を含め様々な労使紛争を見てきました。そこから言えることは、労働者がユニオンに加入して会社と闘うことを決意する本当のきっかけは、ブラックな労働環境よりも、個々の労働者の「怒りのツボ」を会社や経営者、幹部などがたまたま不用意に押してしまったことにあると思います。

そうした意味では、今回のM氏のスクールTOMASとの闘争は、「どーせ何もできないだろう」と労働者を見下す会社が、労働者を本気で怒らせるとどういうことになるのかを如実に表しています。

 

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