退職強要されても退職届は絶対書くな!①
全国の学習塾で働く塾人の皆さんへ。
少し前、弁護士JPニュースで「強引な退職勧奨が解雇の代替手段になっている」という記事が出てました。ワンマン経営者による職場支配が強く、労働組合のない会社がほとんどを占める学習塾業界では、こうした「退職強要」(強引な退職勧奨のこと)は昔から行われてきました。
塾業界で長年働いてきた塾人にとっては、この手の話を聞いたことがない人は皆無だと思います。eisuで労働組合が結成されたのも社員への退職強要がきっかけだったし、ワオやウィザスの職場に労組ができたのも発端は退職強要でした。
皆さんは、もし会社から退職強要を受けても、絶対に退職届を書いてはいけません。一度これを書いてしまうと、その後撤回しようとしても難しくなります。
そこで実際の退職強要はどのように行われるのか、退職強要が起こりやすい職場の特徴、退職強要されやすい人の特徴、退職強要を受けた場合の対処法について当労組の事例や私の経験をふまえて2回に分けて説明します。
退職強要が起こる背景
塾業界だけでなく、日本のあらゆる業界・会社で退職強要が行われる背景として、よく説明されるのが「日本では解雇規定が厳しく、法律上、労働者の解雇が容易ではない」ことが挙げられます。
日本で労働者を解雇する場合、「普通解雇の4要件」というのがあります。この4つをすべて満たして初めて、労働者の解雇が有効とされる要件で、判例上もこれが確立しています。普通解雇とは懲戒解雇とは異なるもので、会社の業績不振などによる整理解雇も含みます。以下の4つです。
① 就業規則に定める解雇事由に該当すること。
② 解雇事由が客観的に合理的であり、社会通念上相当であること。
③ 解雇予告または解雇予告手当の支払いをしていること。
④ 法令上の解雇制限に違反しないこと。
しかしこれに対し「日本でも解雇規定を緩和し欧米並みに解雇が容易になれば、労働t者の雇用流動性が高まり経済発展に寄与する」という意見を唱える人も近年増加しています。
でも、こうした意見を主張する人(もちろん経営者や経営幹部に多い)は、欧米の雇用環境や労働事情、歴史や社会的背景などをまったく理解せず「欧米のやり方を輸入すればすべてうまくいく」という、頭がお花畑状態の人が多いですね。
まさしく暴論だと思います。こうした意見のどこがおかしいのかは、今回のテーマから離れるのでまた別の機会に書こうと思います。
退職強要の実際
さて、実際の退職強要は、ある日突然、理由も告げずに本社の社長室や会議室に呼ばれることから始まります。そこに行くと社長や幹部社員など数名の「お偉いさん」が待っていて、複数名 VS 1人の圧迫面談が始まります。
数年前の仕事上のミスを糾弾されるのは普通で「今の業務で成果を出していない」「業務遂行能力がない」だの「うちの会社に合わない」「顔が怖く威圧感があるので、あなたと仕事をしたい人はいない」だの意味不明な理由で仕事や人格まであらゆる事を否定されます。
そして自己都合による退職を強く迫ってきます。「退職届にサインしろ」「退職しないと賃金がかなり下がるが、それでもいいのか」「退職しないと懲戒解雇になる」など脅迫的な言葉で退職を強要してくる場合もあります。
圧迫面談に参加する会社側の人間は社長だけ、役員1人だけというケースもありますが、職場での上下関係を利用して反論できない形を取るのがポイントです。私のときは役員4人で囲まれましたね。
弁護士JPの記事にも同様な事例が出ていましたが、私の経験から言えるのは、これらの話は「盛って」いるのではなく事実です。記事を読んで驚いた人もいたかもしれませんが、いたって普通の出来事なのです。
退職強要が起こりやすい職場の特徴
ところで、退職強要が起こりやすい職場には以下のような特徴があります。
① 経営者の力が強いワンマン企業で、労働条件や人事などをすべて経営者が決めている
② 経営者の下にいる幹部社員も各職場を独裁支配している
③ 上意下達の体育会的な企業風土があり、常に従うことを求められる
④ 低賃金、長時間労働、連続勤務、サービス残業などの労働問題が職場に蔓延している
⑤ 職場内でのパワハラ、セクハラ、いじめが多い
⑥ 職場内での社員間の相互コミニケーションが少ない
⑦ 職場で働く人は常に強いストレスを抱えながら仕事をしている
労働環境が悪く、そこで働く人が皆、常に不満やストレスを抱えながら仕事をしているようなブラックな職場では、不満やストレスの「はけ口」として、ある特定の人をターゲットにしたパワハラやいじめなどが起こりやすくなります。
私は、この延長線上おいて、特定の人をターゲットにした「退職強要」が発生すると考えます。そしてターゲットになる人は「仕事ができず、実績を上げていない人」とは限らず、あくまで職場内での力関係や人間関係によって選定されます。
要するに「あいつは気に入らないから消えてもらいたい」と経営者や管理職、まわりの人間から思われていれば誰でも対象になり得ます。
また日本の職場では同調圧力が強く、職場内に問題があっても「我関せず」というスタンスを取る人が多いので、誰も声を上げない(上げられない)、改善を言い出さない(言い出せない)ことも特徴の一つだと思います。
退職強要するのは社長とは限らない
ブラック企業で退職強要を行う当事者として思いつくのはワンマン経営者(社長)ですが、意外なことに必ずしも社長が主体となって労働者に退職強要を行うとは限らないのです。
実はワンマン経営の強い会社ではワンマン社長の下の管理職たる幹部社員が主体となった「退職強要」があります。要するに幹部が、気に入らない部下を職場から排斥するため、そうすることで自分の職場支配をより強固にするため、社長に部下の悪評を吹き込み信じさせることで退職に追い込むケースです。
ワンマン経営の強い会社では、社長と一般社員との相互コミニュケーションがほぼ無く、人事評価も経営者が独断でやっているケースも多いです。また経営者も自分で確認することはしないので、お気に入りの幹部から上がってきた意見や評価をそのまま「鵜呑み」するケースも多いのです。
社員と経営者のコミニュケーション不在や、ワンマン経営者の特性をうまく利用して、部下の悪評を経営者に吹き込み、信頼関係を破壊することで職場から追放する。そして自分の職場支配をより強固にする。残念ですがこうした歪んだ性格の幹部・管理職もいます。
eisuでも、幹部・管理職による嫌がらせで労働条件が著しく低下し自主退職を迫られた社員が当労組に加入し労使紛争になり、撤回させた事例も過去にありました。主体が経営者だろうが幹部・管理職だろうが、職場での立場や地位を利用して労働者を自主退職に追い込む手法は共通しています。
退職強要が起こるのは「ブラックな職場環境」も要因の一つですが、本当のところは「職場内での上司と部下の対立」「職場のいじめ・パワハラ」つまり職場内の歪んだ人間関係が原因だと考えます。
次回は退職強要を受けやすい人の特徴、退職強要を受けた時の対処法について悦明します。
学習塾の職場で退職強要を受けて困っている塾人へ
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