自己都合退職を会社都合にする方法

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前回のブログ『来年から失業手当が受給しやすくなります』で、今年の4月以降に自己都合退職した場合、失業手当の給付制限期間が2カ月から1か月に短縮され、失業手当が従来よりも1か月早く支給されることをお伝えしました。

でも、ブラックな職場環境から逃れるために退職しても、しょせん「自己都合退職」にしかならず、失業手当を1か月早くもらえるにしても、働く人にとってはそれほどうまみはないという意見も多いです。

でもこれは違います。失業手当の支給要件である「特定受給資格者」に該当すれば、労働者が自分の意思でブラックな職場を退職しても「会社都合退職」にできるのです。

特定受給資格者に該当すれば、退職勧奨や職場のいじめ、長時間労働、パワハラ・セクハラなどが原因で会社を自己都合退職しても、会社都合退職にでき、失業手当の受給ではかなり有利になります。

厚生労働省のサイトには『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準というPDFがあり、そこに詳しく掲載されていますが、お役所の文書は読みにくくわかりにくいですね。

そこで今回はブラック企業にありがちな理由で自己都合退職した正社員の事例にしぼり、特定受給資格者に該当する範囲と、その認定基準を説明します。なお今回は特定理由離職者(期間の定めのある雇用契約の離職者)には触れないので、厚生労働省のサイトで確認して下さい。

特定受給資格者とは

特定受給資格者とは、①倒産等により離職した者 ②解雇等により離職した者(自己の責めに帰すべき理由つまり懲戒解雇ではないことが要件)の2類型あります。つまり勤務する会社の倒産や整理解雇により再就職の準備をする時間的余裕がないのに離職を余儀なくされた人のことです。

雇用保険についてあまりよく知らない人でも、会社が倒産したり、会社の人員整理のために解雇された場合には、失業手当がすぐにもらえることを知っている人も多いと思います。

特定受給資格者に該当すれば、失業手当を受給する条件として、雇用保険の加入期間が6カ月以上あれば受給でき(本来は12カ月以上)、受給制限期間もないので7日間の待機期間後速やかに給付を受けることができ、給付日数の点においても手厚くなります

特定受給資格者の範囲

特定受給資格者に認定されるためには、その会社をどのような理由で離職(退職)したのかが重要です。ここで知っておくべきは、類型2の「解雇等による離職」の特定受給資格者の範囲です。

意外に範囲は広く、解雇でなくても以下の理由による離職であれば該当します。これらの理由で自分の意思で離職したとしても「会社都合退職」にできます。

① 労働条件の相違

労働契約の締結に際し、明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより退職した者を指します。求人サイトの詐欺広告に騙されて入社し、サイトに記載された労働条件と実際の待遇がかなり違い、離職した場合などに該当します。

特定受給資格者は雇用保険の加入期間が6カ月以上あれば失業手当を受給できるので、求人サイトの詐欺広告に騙されて新卒でブラック企業に入社した場合でも、入社して半年たてばこの離職理由が使えますただし就業後1年を経過した後の離職は該当しないので注意を。

② 3分の1以上の賃金未払い

毎月の賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2カ月以上あった。もしくは離職直前6カ月間のいずれかに3カ月あったことにより離職した場合は該当します。給与の遅配や欠配が理由で離職した人が該当します。

③ 突然の賃金減額

当該労働者に支払われた賃金が離職前6か月のいずれかの月と比べ85%未満に低下した(低下することになった)ため離職した場合に該当します。ただし労働者が賃金低下の事実について予見し得なかった場合に限るので定年後の再雇用での賃金低下などは該当しません。

④ 離職前の時間外労働が各月45時間以上

離職直前6カ月間のうち〔1〕連続する3カ月で45時間、〔2〕いずれか1カ月で100時間、〔3〕いずれか連続する2カ月から6カ月の期間の時間外労働を平均して1カ月80時間を超える時間外労働が行われたため離職した場合に該当します。長期の連続勤務や長時間労働により離職した場合に当てはまります。

⑤ 職種転換への配慮不足

事業主(会社)が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため、職種転換後おおむね3カ月以内に離職した場合に該当します。ブラック企業にありがちな不当配転や、育児・介護による職種転換後の配慮不足などで離職した場合などに当てはまります。

⑥ 職場でのいじめ、パワハラ、セクハラ

経営者、上司や同僚等から故意の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせを受けたことによって離職した場合に該当します。ただし認定されるには事実があったことを立証する客観的な資料・証拠が必要となります。

⑦ 退職勧奨

事業主(会社)から、人員整理などに伴い、直接もしくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した場合に該当します。ただし従来から設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して退職した場合は該当しないので注意を。

会社の人員整理などがないのに、経営者や幹部からの退職勧奨や退職強要を受けて離職した場合は、⑥の理由に当てはまります。

特定受給資格者になるには

離職理由が「自己都合」になっていたら異議申立する

会社を離職(退職)すると、会社から「離職票」が発行されます。これは雇用保険の失業給付申請に必要なので、会社は雇用する労働者が退職したら速やかに発行しなければいけません。

もし上記①~⑦のいずれかの理由で離職しても、会社からすれば「自分の意思で退職」したとされ、会社が発行する離職票の「具体的事情記載欄(事業主用)」には「自己都合による退職」と記載されるのが普通です。これだと特定受給資格者にはならず、失業手当の受給には有利になりません。

特定受給資格者に該当すると主張するには、会社から発行された離職票の「離職理由」に異議を申し立てないといけません。

異議を申し立てるには、例えば本当の離職理由が長時間労働なら、離職票の「具体的事情記載欄(離職者用)」の欄に、” 長時間労働による会社都合退職 ”と記載します。そして「離職者本人の判断」のところに” 事業主が〇をつけた離職理由に異議あり “と記入します。

特定受給資格者の認定はハローワークが行う

特定受給資格者に該当するかどうかの判断はハローワークが行います。事業主、離職者双方が主張する離職理由を把握することにより、それぞれの主張を確認できる資料に基づいて事実確認したうえで、最終的に判断されます。

離職者からの異議申立を受けると、ハローワークの職員が申し立てを行なった事実について、離職した会社に対し電話等で「聞き取り調査」をします。ここで職員は「会社・離職者の主張は正しいか。ウソをついていないか」ということを念頭に慎重に調査します。聞き取り調査はハローワークがするので離職者が辞めた会社に行くことはありません。

したがって、離職理由に異議申し立てする場合、その事実があったと「ハローワークが判断できる客観的な証拠」を離職者がしっかりと揃えられるのかが重要になります。ここで確実な証拠を提示できないと異議申し立てをしても却下され、特定受給資格者に該当しないと判断されてしまいます。

事実確認に必要な資料

離職理由について異議申し立てをした場合に、ハローワークに持っていく資料には次のようなものがあります。末尾の番号は上の離職理由になります。

・ 労働契約書、就業規則、賃金規定(①~⑦)

毎月の給与明細、給与の振込み通帳、賃金に関する通知書等(①~④)

タイムカード、実際の労働時間がわかる記録等(①・④)

採用時の労働契約書、会社の配転命令、配転後の労働条件通知書等(⑤)

パワハラ、セクハラ、嫌がらせの記録、メールやLINE等の記録、録音記録等(⑥)

・ 会社の早期退職に関する文書等(⑦)

・ 心療内科への通院記録、医師の診断書等(④・⑥)

特に離職理由⑥に該当する場合は、それが事実だったとしても、会社は「社内で調査したがそんな事実はない。離職は自己都合だ」と否定してくるので、より客観的な証拠を普段から集めておく必要があります。メールやLINEの記録、録音記録、映像記録など明確な証拠をそろえることが大切です。

最後に、ワンマン経営のブラック企業にあることですが、離職した労働者への嫌がらせで、自己都合退職したのに、会社が発行する離職票の「具体的事情記載欄(事業主用)」に「懲戒解雇」と記載されていた事例もあります。

こんなことをされたら離職した労働者のその後のキャリアに大きな傷がつくのは明らかで失業手当の受給条件も悪くなります。

したがって、離職した場合は、離職票の離職理由がどのように記載されているのかを必ず確認しましょう。身に覚えがないのに離職理由が「懲戒解雇」になっていたら絶対に異議申し立てをしましょう。

 

劣悪な職場を退職したら会社都合退職にして

自分に有利な状況を作って退職しましょう!

 

 

 

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