フジテレビの性加害問題から考えたこと

昨年末から、フジテレビの内部体質に関する問題が大きくニュースになっています。元タレントの中居正広氏と、フジテレビの元女性アナウンサーとの性加害トラブルが週刊誌によって暴露されたことを発端とし、フジテレビ社内のガバナンス、コンプライアンス問題が大きく批判されています。

事態は社長と会長の辞任に発展し、フジ側は第三者委員会を立ち上げ調査と解明を約束しましたが、依然厳しい視線が注がれたままです。この問題はフジだけではなく他の大手メディア各社の「女性蔑視」「女性軽視」の企業体質をあぶり出しています。

ところで最近「♯ 私が退職した本当の理由」というのがSNSでトレンドに入っています。これは職場を一身上の都合により離職した人が、本当の退職理由を赤裸々に綴ったものです。

特に女性の本当の退職理由を見ると、職場で男性(上司・同僚)からセクハラや性加害を受けたことがきっかけで会社を辞めたという内容が多く、令和の現在でも、日本の職場内での女性の地位や権利が低く、男性上位の男尊女卑の意識が根強く残っていることが良くわかります。

普通の企業でもこういう状況なら、昔から若い女性が働く割合が多い学習塾業界では実際どうなのでしょうか? 

塾業界に女性のセクハラ・性加害退職はあるのか

学習塾業界は昔から若い女性の割合が高い業種として知られており、正社員以外にも女性の学生アルバイトもいます。ワンマン経営の会社も多いので、職場の風土として体育会系の上意下達の企業文化が残っているところも多く、そういう意味では男性上位の体質が色濃く残っていると言えます。

このサイトを開設してから10年近くになり、サイトを通してeisu社員や全国の学習塾で働く塾人からの相談を受けていますが、女性からのセクハラ・性加害に関する相談事例はありません。

正直に言うと、女性からの相談ではブラック労働、パワハラや職場のいじめに関するものが大部分を占めており、上司からのパワハラ相談の中にセクハラも含まれていた事例はありますが「セクハラ・性加害」をメインとする相談はないです。

この理由は当事者女性の立場で考えてみると容易に理解できます。職場でのパワハラは周囲で見ている人も多いですが、セクハラ・性加害などは誰もいないところで行われることも多く、加害者と自分だけの問題になるからです。

もし職場でセクハラ・性加害を受けていることを告発すれば周りから白い目で見られ、恥ずかしいと思う気持ちが強くなり、加害者が上司だと職場の力関係から嫌がらせを受けることもあります。労働組合に相談しようにも内容がデリケートなので第三者には相談しにくいと思います。

結局、現状では、女性が職場でのセクハラ・性加害から逃れるには、一身上の都合で泣き寝入りして退職するしか手段がないのです。

塾業界にも当然、職場内でのセクハラや性加害の問題はあると思います。そうした問題が発生しても、女性が一身上の都合で退職すれば、それがオモテに出てこないだけなのです。

昨年にかけて、大手進学塾『四谷大塚』や『栄光ゼミナール』において、教室内で女子生徒を盗撮して逮捕された塾講師がいましたが、事件がオモテに出たから発覚しただけで本来なら内密に処理されたかもしれません。詳細は過去の記事『学習塾で性加害事件が起こる5つの要因』をご覧下さい。

学習塾は教室ごとに社員が分散して働いており密室性も高く、小規模教室だと男性社員1人と女性社員1人で終日勤務するというケースもあります。もしセクハラや性加害が起こっても外部には知られくいという特徴があります。

昨年、問題化したのは生徒への「性加害」ですが、職場で働く女性に同じことが絶対に起こらないとは断言できません。近年、塾業界でもコンプライアンスを重視するようになってきてはいますが、たとえば職場でセクハラ・性加害を受けた女性が社内のコンプラ窓口に相談できるのか?

こうした窓口は大手塾では設置されており、eisuにもありますが、女性社員にその存在が周知されているのか? 相談内容の秘密は守られるのか? 窓口に女性の担当者がいるのか? 相談者のプライバシーは守られるのか? 加害者の懲戒等がきちんと行えるのか? などの問題があり、単に「設置しただけ」の感は否めないです。

職場でのセクハラ・性加害を防ぐには

職場でのパワハラ防止においても同様ですが、セクハラ・性加害を防ぐには、一般的に次のようなことが必要とされます。

① 事業主(経営者)の方針の明確化と従業員への周知・啓発・教育

② 相談窓口の設置と適切に対処するために必要な体制の整備

③ 迅速な事実調査と被害者への適切な措置

④ 被害者・調査協力者等のプライバシー保護と不利益な取扱の禁止

⑤ 加害者の処分と今後の再発防止措置の明確化  

問題は職場内でこれらがしっかり「機能」しているかどうかです。フジテレビの事例からもわかるように、名の知られた大企業や、またホワイトと呼ばれる企業でもセクハラ・性加害防止のシステムが完全に機能しているとは言えないと思います。

特に中小企業では、セクハラ・性加害への相談窓口がないことも多く、経営者が加害者であるケースもあります。塾業界を含めて大半の企業ではコンプライアンスの必要上、相談窓口をとりあえず設置しただけで実際ほとんど機能していない会社が多いです。

フジテレビでもそうですが、社内で女性へのセクハラや性加害が発覚した場合、企業として利益損失や顧客の信頼低下につながる可能性もあるので穏便に解決したいと考え、また被害女性もできるだけ誰にも知られずに解決したいと思うのが普通です。

そこで企業としては「被害者である女性の人権に配慮して」できるだけ内密に処理しようと考えます。特に男性上位の男尊女卑的な職場風土を持つ企業なら、被害女性に圧力をかけ暗に退職を強要して隠ぺいを図るケースもあります。

こうして内密に処理された結果、被害者である女性がひっそり退職して幕引きということが実際多いです。フジテレビの事例も週刊誌に出なかったら誰にも知られなかったでしょう。SNSで「♯ 私が退職した本当の理由」がトレンド入りするのもこうした状況があるからです。

当労組には学習塾業界で働く女性からのセクハラ・性加害をメインとする相談はないですが、これをもって塾業界の職場では女性へのセクハラ・性加害の問題がまったくないとは言えません。なぜなら労働組合にいると、塾業界以外の職場での女性へのセクハラ・性加害の事例をよく聞くからです。

女性へのセクハラ・性加害はパワハラと同じく、職場内で弱い立場に立たされている人が常にターゲットになります。それを防ぐには、相談窓口の設置や調査、懲戒規定、再発防止策などの整備だけでは不十分で、その会社の職場文化や組織風土そのものを変える必要があります。

こう考えると職場でのパワハラ・セクハラ・性加害などに黙って耐えているだけでは根本的な解決にはなりません。もし自分が職場を去っても、その後も別の誰かが被害者になり得ます。

セクハラ・性加害が起こる企業風土や職場環境を変えていくには、職場でセクハラや性加害を受けたら、黙って耐え、最終的に職場を去るのではなく、ときには毅然として対抗することも必要です。対抗するための効果的な手段について近日説明したいと思います。

 

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