学習塾での定年後再雇用問題 ②

ワオ分会 再雇用をめぐる団体交渉

なにわユニオンに所属するワオコーポレーション分会は、昨年7月より、今年定年を迎える組合員の定年後再雇用の労働条件を巡って団体交渉を重ねてきました。組合は会社の土俵に乗ることなく一貫して同一労働同一賃金と生活給を主張してきました。そして一部の労働条件には合意しないと会社に明言したうえで妥結に至りました。 会社との粘り強い交渉の結果、ベストではありませんが、ベターな回答を得ることができました。 団体交渉への支援、アドバイス等、協力していただいた鈴鹿英数学院eisuユニオン)の組合員の皆さん。ありがとうございました。

年金受給開始年齢の引上げ問題

さて、公的年金の受給開始年齢を将来、現行の60~70歳から70~75歳に引き上げることが政府内で議論されています。 現行の制度では支給開始は原則65歳ですが、実際は60歳から70歳までの間で年金を受け取る(繰上げ・繰下げ受給)ことができます。では今後も『原則65歳受給』が変わらないかというと、そうとも限りません。支給開始年齢をもっと遅らせるように検討されていることも事実で、10年以内に67~68歳にするという議論もあります。政府は『75歳現役社会』のスローガンを盛んにまくしたててますが、これは近い将来、年金を受け取ることができる年齢が70歳~75歳に引上げられることを暗示しているように思うのは私だけではないでしょう。これから定年を迎える者にとっては『いつまで働かさっしょるねん』ですわ。

私らの親の時代は55歳の定年と共に年金が受給できましたが、今は原則65歳からしか受給できません。実際問題として年俸制の導入などで50歳前後から賃金が減らされ、60歳定年後の再雇用で賃金は半額、65歳からの年金受給でこの5年間のギャップを雇用継続給付金という制度で埋めても埋めきれない。これが現実です。私も含めて学習塾に勤務する皆さんも、自分の息子や娘を大学に進学させるのに十分な学費を確保できずに、やむなく奨学金を借りてもらい卒業後返済というケースが少なくないと思います。また60歳の定年時に住宅ローンが完済されていない場合、その後の支払いをどうするか頭を悩ませている人も多いのではないでしょうか。さらに今後、年金の支給開始年齢が引上げられると、生活が立ち行かなくなる方もたくさん出てくるのではないでしょうか。

学習塾も定年延長を!

全国の塾人の方からの相談や情報では、学習塾の多くは退職金制度が完備されておらず、支給されても多くて年収分か、ほとんどはそれ以下のケースが大半のようです。今後は年金も十分な額を期待できないため、学習塾業界でも60歳定年後の再雇用問題や65歳以降の働き方をどのようにしていくのかを考える時期がきていると思います。公的年金の支給年齢引上げ、現状での60歳定年後の不安定な再雇用条件などを考えるならば、学習塾の経営者に対して、65歳以上に定年を延長すること、リタイヤ後の生活に不安のないよう退職金制度の整備拡充を要求していくべきだと思っています。

定年後再雇用 賃金についての問題

一般的に定年後再雇用の労働条件は、それ以前の年間賃金の半額からそれ以下というのが相場のようです。そんな事を誰が決めたのでしょうか。 ユニオンに加入し裁判闘争をしているトラックドライバーの人から直接聞いた話ですが、定年前と同じ労働時間、同じ仕事内容なのに60歳で定年を迎え再雇用になった途端に賃金だけが大幅に減らされるのは不合理で納得できないということでした。

判決では以前の賃金の70%程度になるのは社会的通念として認知されているとのことでしたが、私はこの判決を聞いて「???」と思いました。なぜなら、この答えはWhyに対してBecause になっていないからです。『60歳以上になるとなぜ賃金が30%下がるのか?』 という問いへの解答としては、『60歳を過ぎると生産性が30%下がるから』 という理由であれば因果関係が成立します。しかし『世間がそうなってるから』という解答では因果関係が成立しません。 明らかに問いと答えがズレています。論理的整合性がありません。大学受験レベルの国語の論述問題ならばこんな解答はバツでしょう。少なくとも正答にはなりません。

学習塾での再雇用賃金

私は学習塾に30年以上勤務してきました。学習塾業界の内情はよくわかっているし、この業界で勤務する友人や知人もいます。一例をあげると年俸制を採用している学習塾の場合、50歳前後から査定を根拠に年俸を下げられ、個人差はありますが60歳定年時の年俸は賞与や各種手当込みで430万円から550万円くらいでしょうか。学習塾に限ったことではないですが、再雇用になると賞与や各種手当はカットされ基本給だけになるのが普通です。具体例で説明すると、かりに定年時の年俸(年間賃金)が500万円だったとして、まず賞与と各種手当相当額140万円が差し引かれ、残った360万円が基本給部分となります。この360万円の70%程度の金額、つまり252万円が定年後再雇用の年俸となります。これを12で割ると1か月の賃金は21万円。さらにここから税やら社会保険料が差し引かれるので毎月の手取り額は17万円程度になります。このように定年前には500万円あった年間賃金が、定年後の再雇用では252万円と、ほぼ半額になります。これでも勤務日数や労働時間が定年前と比べて短いのならば少しは納得できるかもしれませんが、学習塾でも前述したトラックドライバーと同様、再雇用後の労働時間や授業コマ数が同じなのに60歳を迎えた途端に年俸はそれまでの半額程度になります。

賃金は 『人』に支払われるのか? それとも『労働の対価』として支払われるのか?  このことを考えると、定年前とまったく同じ授業、同じ労力、同じ時間を費やして仕事をしているのに賃金だけが激減するのは『人』に支払われていることになります。資本主義社会では60を過ぎたオッサンはベテランでスキルが高くても市場価値が低い『不要な人間』になるのでしょうか? 再雇用で給料が減るならば、勤務日数や勤務時間が減るのであればヒューマニティーのようなものも感じられますが、現状では 会社(経営者)に再雇用というシステムを悪用され、低い労働条件で働かされていると言わざるを得ません。このような現状のまま、近い将来、年金の支給開始年齢が70歳以上になればますます老後の生活は不安定になっていくと思います。私は70歳になっても 『生きていくために働かなければならない人間』にはなりたくありません。 なぜなら『働きたくて働いている人』と『働かないと生きていけないから働いている人』とのあいだには大きな格差があるからです。

あと数年もすれば、80年代後半から90年代はじめのバブル期に学習塾に入社した人たちが60歳の定年時期を迎えます。今後の年金制度の変更や『働き方改革』の結果にともない、学習塾業界においても定年を何歳にするか。再雇用者の労働条件をどうするか。高齢者にどのように働いてもらうか・・などの問題が起こることは予想できます。

労働組合である私たちは、これから会社(経営者)に対し・・・

① 定年を65歳以上に延長すること。または定年制の廃止

② 再雇用者の労働条件の安定・向上

③ 退職金制度を一般企業並みに整備・拡充すること

④ 再雇用者の労働時間短縮

などを要求し、運動を進めていこうと思っています。

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学習塾での定年後再雇用問題 ②” に対して1件のコメントがあります。

  1. T.K より:

    私は首都圏の学習塾で小学生、中学生を教えています。大学生の時からこの塾で働いていて、現在は正社員として勤務し校舎の責任者をしています。

    少子化のあおりを受けてか、入塾生は以前ほど来なくて、授業形態も個別指導、映像授業が増えてきました。売り上げはキープしているようですが、利益率が減ってきて、ベアどころか年収は下降気味です。これから今付き合っている彼女との結婚を考えていますが、先方の親が将来の生活設計を案じておられます。

    この記事を拝読し、定年まで働いたとして退職金がどれだけ支払われるのか、そして再雇用の労働条件に不安を持ちました。ここ数年120万人前後で推移していた18歳人口も今年から急減期に入り、2024年に110万人を切り、2031年には100万人を切り99万人になるそうですが、これから集合授業の塾というビジネスモデルが存在するのは難しいと思います。集合塾に比べ人・物・金・インフラ投資が少なくて済む個別指導塾、映像授業などが取って替ると思いますが、利益もそんなに出ず、この先給与もそんなに期待できないと思います。

    この記事を読んで、これからの人生を有意義に過ごせる環境設定をしなければと思いました。

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